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第38話:いつもより二割増しな幼稚園児

「すごい数」  俺とタケルさんが『キツネさんち』に入るなり、ちょうどギターを抱えて立ち上がったタクトが、タケルさんを見るなりそう言った。 「数?」  タケルさんが聞き返したが、タクトは珍しく背筋を伸ばし、ギターのシールドをぶらぶらさせたまま近寄ってきたので、俺は一歩引いた。  そして、まるで世界で一カ所の鉱山でしかとれない石を鑑定するような眼で、タケルさんの顔やら両手のひらやら指やらをなめるようにガン見していった。 「えっとー……」 「あ、タケルさん、気にしないでください。この生物は幼稚園児です。子供は興味を持ったものには歯止めが利かなくなります。そのうち飽きます」 「すごーい!」  俺が言い終えた瞬間、タクトは両手を挙げて例のごとく軟体動物のダンスを踊り出した。 「色の話? どんな色が見えたの?」  と聞いてみると、 「カラフルカラフル! こんなにいっぱい色持ってる人初めて見たあああ!! 凄いね! 僕の次に多い!!!」  なんか最後にマウント取ったか?  俺はタケルさんに、改めて水沢タクトと彼の共感覚を説明した。 「なるほど、興味深いね。実は俺、水沢タクトくんとは、会うのは初めてだけど、これまで何度か関わってるんだ」 「え?!」  これには俺も驚き、タクトもぽかーんとした。 「全部で五曲、一曲は採用されなかったけど、水沢タクト作詞作曲の曲を、ギターでレコーディング参加したことがある。一番最近だと、ムジナ村ブラザーズの『ケイオティック・トウキョウ・ナイトメア』、アレは最高だったね」 「ええええええ!!! アレってギターが超絶技巧で『弾いてみた』系の動画が全然ついていけなかったやつですよね?! アレ、タケルさんが弾いてたんですか?!」 「まあ、俺は七弦で弾くから六弦使いの奴らとは違うだろうけど、あんなに弾き甲斐のあるギターは久々だった。だから会えて嬉しいよ、タクトくん」  余裕の笑みを浮かべるタケルさんの爽やかさがまぶしさがまたかっこよかった。もう何なのこの人。

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