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第35話:決戦前のエンカウント 後編

「アキ、ラ……?」  呼んでみたが、違うことがすぐに分かった。  カウンターの向こうのソファに座るのが、ライトブラウンの短髪ではなく、黒髪ストレートで襟足の長い男性だったからだ。 「ん?」  男が振り返る。  正直に言う。めっちゃかっこいい人だった。  年は三十代前半くらいだろうか。ファッションセンスが大人だ。無地の黒ワイシャツを着崩し、ブレスレット二連は多分クロムだし、右手にしてる三つの指輪もシルバーと石付きがひとつ、俺でも分かるほどハイブランドのものだった。 「きみ、誰?」  しかもいい声してた。何この「かっこいい」の固まり。  「あ、あ、あ、貴方こそ誰ですか! 勝手に人の家に上がり込んで!」 「ハァ? どっちがだよ。ここ半分は俺んちだよ」 「し、知りませんよそんなの! ここは三津屋アキラの部屋です!」 「でもきみは三津屋アキラじゃない。だから誰? 不法侵入者?」 「ちっ違います!! 俺はそのー、ア、アキラくんから鍵を渡されて先に帰るように言われて——」 「なに、証明できんの? アキラの鍵盗んだんじゃないの? アキラ、前ストーカーいるって言ってたし」 「はぁ?! それは過去の話です!! 今では立派な恋人です!!!」 ——って、あれ?  俺今、物凄く恥ずかしいこと、誘導尋問で宣言した? 「はは、ごめん、須賀結斗くん。なるほどねぇ、アキラが本気になるのもちょっと分かるよ。確かにかわいいね」  そう言うと、かっこいいの固まりさんは改めて俺の方へ向き直った。  え、ちょっと見たことあるぞこの顔。既視感ある。でもそれとは別に、なんかのメディアで見たような……。 「俺は彩瀬(あやせ)タケル、アキラの従兄弟。ギター弾いてる。リアガンの話聞いて、今日は見学に来たんだ」 ——彩瀬タケルだって?!  あの、自分が気に入れば無名のインディーズバンドであろうと何十年ものキャリアを持つ大御所バンドでもサポートで弾く、さすらいの七弦ギター使いの?! 「あ、あの、気が動転していたとはいえ、失礼なこと、多々、お詫び申し上げます。ご活躍は、その、かねがね……」 「いや、そういうのいいから。うーん、やっぱかわいいねぇ、アキラにはもったいないねぇ。後でアキラとのツーショ撮らせてよ。きっといい絵になる」 「は、はぁ……」  と、頷いて、俺はもうひとつのキラーフレーズに気づいた。 「え!? アキラの従兄弟?!?!」  これにはタケルさんも爆笑した。 「面白いねぇ! こりゃあリアガンよりきみとアキラっていうカップルの方に注目しちゃいそうだよ! まあ、今後やりとりもあると思うから、よろしくね、結斗くん」 「は、はい!」  俺は手汗でナイアガラの滝が作成可能なレベルに達しながらもタケルさんと握手を交わした。  っていうかあんな誘導尋問、卑怯だよおおおおおおおお!!!

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