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第40話:水沢タクト、凍る

 結局、野性の天才アマデウス対さすらいの凄腕ギタリストによる早弾きバトルが開催されてしまった。いいんですか、二人とも、そしてアキラも……。 「じゃあタクトくん、追いかけっこしようか。俺が先に弾くから、ついてきて」  七弦SGを構えた彩瀬タケルはもうそれだけで一枚の絵画になるほど『かっこいいの固まり』だった。  そして顔に薄い笑みを浮かべたまま、フレットの高い位置からボディギリギリまでとんでもないスピードでワンフレーズ弾いてみせた。クソほど速い。 ——素人相手に容赦ないですね……。  しかし驚いたのは、タクトがそれを完璧に再現したことだった。 「いいね! じゃあこれは?」  タケルさんが今度はチョーキングとタッピングを混ぜた長めのフレーズを披露、俺なら死んでる。  しかしながら、タクトは暗殺者モードでそれをも完コピしてのけた。 ——ように俺には聞こえたのだが。 「タクト、一音足りなかった。タケ兄の勝ち」  そう宣言したのはアキラだった。 「……え?」  え、うそ、全然気づかなかった。  何より意外なのは、タクトが驚いていることだった。 「僕ちゃんと弾いたよ、アキラくん」 「いや、弾けてたけど、最後から二番目の音、細かいチョーキングが抜けてた」    タクトは愕然としてタケルさんを見遣った。 「ごめんごめん、タクトくん凄く上手いからついムキになっちゃった」    そしてタケルさんが続ける。 「もしかしてタクトくん、ギターの弾き方、習ったことない?」 「ない」 ——ちょっと待って、ちょ、ちょっと待て、独学でアレってもう……!!  俺が幾度目か分からないタクトの天才っぷりに悶絶していると、タケルさんがギターを下ろし、タクトの背後に回った。ちなみにタクトはテレキャス使いだ。 「きみのチョーキングの癖、指の腹がここ触ってるでしょ、本当はこっち側を使うんだけど——」   タケルさんがタクトの背後から、バックハグと言うか二人羽織というか、そういう体勢でタクトの手を取った。  ら。 「混ざる!!」  とタクトが叫び、タケルさんを振り払ってしまった。

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