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第51話:音を喰らう身体
——まあ可愛らしい子! お嬢ちゃん、おいくつ?
——女が男子便入ってくんなよー!
——谷津くんが学ラン着てるのってなんか違和感あるよね〜
——谷津先輩、綺麗すぎて私女やめたいレベル……
オレは幼い頃から女だと勘違いされることが多く、第二次性徴はおろか成人してもなお中性的ないし女性的な顔立ちなようだ。
それはコンプレックスでもあった。『表面しか見られていない』、そんな強迫観念があったからだ。
だがベネフィットもあった。男を落としやすい。容易く。
少しメイクを学び、所作に気を遣うようになってから、オレは女より男と関係を持つ方が楽になった。女のように見られても、女のように振る舞っても、誰も俺を責めないからだ。
音楽を始めたのは幼稚園児の頃からだ。
高校に上がって軽音部に入ったがレベルが合わず、すぐインターネットに自作曲をアップロードしてメンバーを募った。一番最初に物凄い勢いで食いついてきたのが神谷だった。もちろんネット上に顔は晒してなかったが、初めて会った時には惚れていたと、後にくだらないピロートークで聞かされた。
メンバーが揃い、The Blue Printというバンドを結成したのが三年前。
その頃から、オレは自分の特殊体質に気づく。
女は無理だが、ミュージシャンの男と寝ると、相手の音が身体に入ってきて、作曲時の音色の幅が広がっていくのだ。
最初はこれが面白くて、手当たり次第自分の気に入った音を持つバンドマンと関係を持った。どんどん拡張されていく自分のキャンバスが無限に感じられた。
誤算だったのが神谷の存在だ。俺を独占したがる。恋人を気取る。鬱陶しいことこの上ない。だが皮肉にも、神谷の身体が一番オレの身体に合う。もちろん色んな連中と寝たから快楽の差はあれど、『しっくりくる』とでも言うか、要するに相性が良いのだろう。
皮肉なことに。
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