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【第三部】第60話:イタリアン・レストラン

 俺、須賀(すが)結斗(ゆうと)は、恋人にしてスーパードラマー・三津屋(みつや)アキラの知人のイタリアン・レストランに、『都市伝説作曲家』こと水沢(みずさわ)タクトと共にいた。  食事はしていないし、テーブルにもついていない。ただ、この四ヶ月近くで俺たち三人、「REAL(リアル) GUN (ガン)FOX(フォックス)」というバンドに興味を持ったり、「ファン」と公言してくれる人々の前で、パフォーマンスをしていた。一番近くのテーブルには、スーツを着た男性がいて、俺に向けて親指を立ててみせた。  今夜このレストランは本来定休日だが、オーナーの厚意で、初めての『ワンマンライブ』の会場として店を貸してくれた。  もともとライブ演奏が行われるレストランとあって、俺たちの機材は余裕を持って置けたし、オーナーから「告知して六分でフルハウスだよ!」という嬉しい報告もあった。フリーライブではあるが、俺たちは集まってくれた人たちに、できるだけ多く飲み食いしてくれと頼んでいた。  俺は、やっと理解できた。  LRハウスでのあの悪夢のデビューライブ時に俺に決定的に欠けていたものを。  でも、俺は、アキラとタクトという心強いバンドメイトに支えられて、自分がリアガンの「ヴォーカル&ベース」であると同時に、「フロントマン」であることを。  そして——  曲が終わると広く薄暗い店内から割れんばかりの拍手が巻き起こり、微かに見えるお客さんたちが笑顔だったり、楽しそうにしているのを見て、もうひとつ、再認する。  俺の歌声が、彼らを笑顔にしたり、興奮させたり、時には涙をも誘う、という、シンガーとしての当然の認識を。  だがここまでの道のりは長かった。

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