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第61話:ドサ回り上等

 あの悪夢の夜から僅か二日後、アキラが俺たちの『秘密基地』、通称『キツネさんち』に入ってくるなり宣言したのだ。 『こっから五駅先に、ストリート・ミュージシャンが多いデッキがあるらしい。おまえらさっさと支度しろ。乗り込むぞ』  俺は目が点になったが、タクトは興奮した様子で、 『もしかしてそれってストリート・ライブ? うわあああ楽しそう!!』  と飛び上がり、すぐさまテレキャスのシールドを抜いた。  だが、俺は身体が硬直してしまい、全身の皮膚が凍り付いたような感覚に襲われた。  するとアキラがその大きくて逞しい手を俺の肩に置き、 『駅の改札を出た所だ、通行人はどんどん流れる。他のミュージシャンもいる。遠慮無くトチれ。「どうせ誰も聞いてない」とでも思って』  と言ってくれたが、俺は動けずにいた。  するとアキラはこう続けた。 『だがな、ひとりでも足をとめる奴がいたら、それはおまえの勝利だ。たとえほんの四秒間であろうとおまえの声が見ず知らずの人間の声に刺さったってことだよ。そうやって小さな勝利を積み上げていこうな、俺と、タクトと、三人で』  そしてその後、噂の駅前のデッキに辿り着くと、確かにダンスグループや民族音楽を演奏するアーティストたちが何組もいて、中には観客が輪になっているグループもいた。 ——俺は、須賀ユウは、本当に歌えるのか?  

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