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第62話:ストリート・ライブ・デビュー
俺とタクトはあえてアコースティック・ベースと、アコースティック・ギターを持参していた。何しろエレキは音がでかい。アキラもスネア以外は最小限のドラムセットを組んだ。
アキラの目的はおそらく、なるべく少ない人数の前で俺が歌い、徐々にオーディエンスを増やしていく、というものだろう。そのためか、改札口から少し離れたスペースに機材をセッティングしたが、マイクスタンドはなく、いつの間にかアキラが手配していた折りたたみ式の椅子に座ってパフォーマンスを開始した。
楽曲なら、四月からタクトが書きまくっていたし、エレキの曲もアコースティック・バージョンにアレンジしていた。
俺はタクトのギターから始まる曲の音色と、がやがやとした雑踏の音を同時に耳にしつつ、気付いたら目を閉じて、ベースを弾き、アキラが控えめに叩くリズムにのって声を出してみた。
マイクを通していないせいか、自分の声が通行人の足音や笑い声に掻き消されるのが分かった。目を閉じているから、誰も俺に期待していないと気楽になれた。
二曲目の途中にして何だか愉快になってきて、俺は少し声を張って歌い始めた。目は瞑ったままだったが、どうでもよかった。アキラの言った「通行人が足を止める」ということすら忘れて、ひたすらにこの三人で奏でる音楽に没頭し、歌い続けた。
四曲目が終わったところで、俺は水を飲もうと初めて目を開いた。
そして驚愕した。
何度も確認したが、なんと最低でも十一人の人たちが俺たちの前にいて、笑顔を浮かべていたのだ。
『それはおまえの勝利だ』
アキラの言葉が、脳裏に響いた。
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