64 / 71

第64話:The Biggest Fan

 それからというもの、加藤さんは本当に毎回俺たちのライブに毎回来てくれるようになった。  人通りの多い街のデッドスペース、オーディションを通らないと演奏許可が下りない老舗のライブバー、少し大きめのブースでのスタジオライブ——。  俺は歌うことがどんどん楽しくなっていった。歌唱力も上がったように思う。アキラの言っていた『スモールステップ』、いわば成功体験が、俺の、須賀ユウの中に蓄積されていって、そう、今歌っているイタリアン・レストランでも、自負というか自信というか、そういうものをしっかりと全身で感じていた。  加藤さんは、場数を踏む度に歌が良くなってると言ってくれた。第三者から見てもそうなんだったら、俺だってちょっとくらい自己肯定感上がりますよ。  初対面の時、タケルさんが言っていたことを思い出す。 『別にナルシシストになれとは言わない。でも表現者たるもの、最低限のナルシシズムと自信、自負が無いと音に説得力が生まれない』  その言葉の意味を実感しながら、俺は歌い続ける。 「最後の曲です」  そう俺が言うと、店内中のオーディエンスが、『ええぇぇぇ!!』と良い意味でブーイングをくれた。  俺は思わず笑みを浮かべ、タクトとアキラにスタートの合図を送ってからアコースティックだけど滅茶苦茶ハードなナンバーを開始した。すると、お客さんたちはすっかり縦ノリになってしまって、ほとんどの人が立ち上がって、飛び跳ねたり踊ったりしてくれた。  俺はもう目を閉じずに歌うことができる。自分の成長を日々実感し、絶対にまたLRハウスのステージに立ってやる、と燃えていた。  イベントが終わり、ほとんどのお客さんたちが去っても、『ファン一号』を自称する加藤さんや、その他にも、自分で言うのはおこがましいけど『固定ファン』というか、ライブの常連さんたちが残って、撤収を手伝ってくれていた。 「ユウくん、またファルセットが力強くなったね」  最後の椅子を持って運んでいると、同じく椅子を持つ加藤さんがそう声をかけてくれた。加藤さんは褒め上手だ。上辺だけの当たり障りないことや、お世辞なんて言わない。元バンドマンということもあってか、感想も技術的なことが多かった。    何より、こんな大きなレストランでのライブが、フリーとはいえ六分でソールドアウトなんてことになったのも、実は加藤さんのおかげだ。大手出版社勤務で編集者の加藤さんは、俺たちの許可を得てライブの動画や写真を撮って、リアガン公式よりフォロワー数の多いアカウントにアップしたりしてくれて、言ってしまえばインフルエンサー的存在だったのだ。  笑顔で話しながら出口へと向かう俺と加藤さんを、後ろからタクトが眼を細くして見ていたなんて、その時は気づきもしなかった。  

ともだちにシェアしよう!