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第67話:警告
「どうした、タクト。今日は練習しねぇのか?」
例によってメロンソーダをちゅるちゅると飲むタクトは、しばらく無言だった。
「演奏面以外の打ち合わせ?」
俺が聞いてみると、タクトは向かいの俺とアキラの方へ向かい直した。
そして久々に目にしたものに、俺は言葉を失った。
いつもの幼稚園児(年中さくら組)ではなく、暗殺者のような、極めて鋭い視線、そして能面のように無表情だったからだ。
「きみたちさ、折角軌道に乗ってきたこのバンドを壊したいの?」
突然の発言に、俺もアキラも絶句した。
「何言ってんだよタクト! んなわけねーだろ! 俺らはこっからまだまだ行くんだよ!」
アキラが声を張って叫んだが、タクトは眉筋ひとつ動かさずに続けた。
「アキラくんもユウくんも、若年性アルツハイマーにでも罹ってるの?」
理解しがたい返答に、俺とアキラは顔を見合わせた。
「何の話だよ」
「僕、言ったよね? 僕は作曲と作詞できみたちより仕事量が多い。だから痴話げんかとかそういった類のことは僕のあずかり知らぬところでやってって」
瞬間、思い出した。そうだ、このファミレスで俺とアキラとタクトが初めて顔を合わせた時に、タクトは確かにそう言った。
「別に痴話げんかなんかしてねえだろ」
「してるじゃん。アキラくんは、確かユウくんが初恋だよね? セックスの回数とかの問題じゃなくて、経験値の話。アキラくんには経験値が致命的に足りてない。最近不機嫌な顔をよく見せるようになった。練習中でもね。で、ユウくんはそれに対して解決しようとか、そういう気概が見られない。それだけで、僕はもううるさいんだよ、きみたちのことが」
あれだけ長い時間を共にし、何十本もライブをこなしてきた仲の水沢タクトは、バッサリとそう言い切った。これには流石のアキラもショックな顔をしていた。
「きみたちの問題に、僕は何の意見も言わない。でもこんな状態が続くなら——」
そこでタクトはメロンソーダを音を立てて飲み、こう言い放った。
「僕はすぐにでも抜ける」
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