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第69話:オーダー
久々に入った自室は、やはりちょっとした安心感みたいなものをくれた。
一息ついて荷物を置いた瞬間、スマホが鳴った。タクトだった。俺はバッグを投げてすぐ受信する。
『あ、ユウくん? 実は言い忘れたことがあったぁ〜』
タクトの声はいつも通りの幼稚園児だった。
「なに?」
『日本語でいいから、この前デモを渡した二曲の作詞をして欲しいんだ。その出来を見て、僕が英訳するか日本語のまま行くか決めるううう』
——さ、作詞?!
『アキラくんとのこともあるだろうけど、遅かれ早かれ僕は作詞を辞めるつもりだったから、まあ、お試しって感じで書いてみて。じゃぁねぇ〜』
なんでアキラとのことでバンドを抜けると言った当人がバンドを進める方向の発言をしてきたのかはまったく理解できなかったが、俺は書こうと決めた。
リアガンにはラブソングがない。歌詞はタクトが日本語と英語が混ざった、様々なテイストのものを書くが、一曲くらいラブソングがあってもいいんじゃないか。それにやっぱり発声する俺自身が書けば、よりよくなると考えた。
荷物の整理すらせず、俺は音源を出し、ルーズリーフとペンケースを取り出した。
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