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午後の夢 二
仁は、父と勇叔父にとっていとこであり、望にとっても親戚ということになる。
勇叔父とは親友でもあり、この人も陸軍に入って、勇叔父とともに大陸へ同行したが、事情があって今年で辞任する予定だと聞いている。
仁の名前を口に出すと、望の胸は、勇叔父の名を呼んだときとは別の意味でざわめく。
「わかった。少し歩いたら、帰ってくるから。お出迎えには遅れないようにするよ」
それだけ言うと、望は学生帽をかぶって駆けだすように庭へ出た。
庭を抜け、森に入り、しばらくあるくと、望の気に入りの場所につく。
本道をすこし離れたところにある欅の木の下で、誰にも見つかることはない。
望は少年の無頓着さで、あたり一面に無数に咲くカタバミの花や若草の上に平然と座りこむや、持ってきた雑誌と本をかたわらに置いた。
最初は雑誌『少年倶楽部』をぱらぱらと読んで、それに飽きると、小説本を手にとった。外国ものの翻訳小説で、学院の友人がおもしろいから読めと薦めてくれたものだ。これもしばし読んで、飽きると止めた。
思いっきり両手を伸ばしてみると、おだやかに降りそそぐ木漏れ日に、全身を洗われるような気持ちにされる。
そして辺りを見回し、木や草の匂いをしばし味わい、静かさに安心し、それらか……おもむろにいつもの行為をはじめた。
草地の上に身を横たえる。
若草の匂いに身をまかせ、望は熱をふくみはじめた幼い分身をなだめることにした。
いつもの、青春の入り口をくぐる秘密の儀式である。
(勇叔父さまが帰ってくる……。仁さんを連れて)
二ヶ月ほどまえ送ってくれた勇と仁の写真を脳裏に描いてみる。
それは大陸の西洋式のホテルらしく、絨毯をしきつめた部屋で、西洋の椅子に座っている仁の横に勇が立っているという、ありがちな図だが、二人ともに凛々しい陸軍の軍服姿で、きりりとひきしまった容貌の勇と対照的に、おだやかで少し寂しげな美貌の仁の姿は、活動映画か芝居の一幕のように現実ばなれして、夢のように思えた。
東京の自宅でそれを目にした若い女中が、「まるでお二人とも役者のようでございますわね、若様」とほとんど叫ぶように言って、はしたない、と都に叱られていたのを思い出す。
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