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牡丹の闇 四

 幾度となく夢のなかで仁を裸に剝き、言葉で嬲り、責めいたぶっていた望である。  仁が憎いというのではない。出口のない欲望が、そんな妄想となって美しい親戚に向かっていったのだ。望の知るかぎり、仁は誰よりも美しく、清らかで、どこか脆そうなところがある。  それが、性に目覚めはじめた少年の支配欲や征服欲をたまらなく煽るのだ。 「あっ、ああっ、さ、さわるな! 下種!」  組み伏せられていた仁が、さすがに気強く抗議するが、それはさらに勇の欲望を引き出すだけだった。望の欲望をも。 「黙れ!」 「ひっ!」  勇の平手が仁の白い臀部を打ったのだ。 (あ……)  望は自分が打たれたような衝撃を受けた。  仁の白い尻。男とは思えぬほどに白くなまめかしく、ほのかな明かりのもと、ぶるぶると震えている。真珠か白金(しらかね)を彫琢したのかと思えるほどに美しい臀部である。  いや、臀部だけではなく、くずれた寝巻にからまれるようにして、ところどころ肌をあらわにし後ろ手に縛られている今の仁は、全身、名工が貴石を刻んでこの世に創り出した芸術品のように素晴らしい。  望は、頭が沸騰しそうになった。 「ふん。女なぞ、知りませんという清い顔をしておきながら。欲望なぞないと取り澄ましておきながら……よくも……、あんな淫売と」  忠の言葉に望はぎょっとした。  仁には、付き合っていた女性がいたのだろうか……。  仁ほどの美貌なら想う女も大勢いたろうが、仁自身が想いを懸ける女がいたというのが驚きだった。  そして、それはひどく不愉快なことに望には思える。  これを嫉妬というのかもしれない。 「言え、あの淫売を何回抱いた?」  ぐい、と忠が足先で仁の尻をさらに力強く押す。 「あっ……、ああっ!」  まるで芝居の責め場のようで、望はぞくぞくした。美しい遊女が恋しい男に義理をたてて雪のなかで責められる雪責めの場面を望は思い出した。

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