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第5話 プロローグ5
遠野がそんな気持ちでいたなんて全く気が付かなかった。
目の前の良く知っているはずの人物がまるで別人の様に映る。
「別にお前と付き合えるとか思って……」
「ごめんなさい!」
僕らは同時に口を聞いた。
遠野も僕もポカンとしている。
僕は遠野の顔をバカみたいに見たまま遠野が何を言おうとしていたのかを考える。
僕と付き合えるなんて……思ってない。
そんな様な事を遠野は言おうとしたはずだ。
「えーっと……」
気まずそうに遠野が頭を掻く。
僕も気まずい。
「いや、断られるとは思っていたけども。あっさりしたもんだな」と遠野。
「いやいや! ごめん。何か焦っちゃって……別に遠野の事が嫌いとかじゃ無くて、その……遠野の事、友達としてしか見て無かっただけって言うか、何て言うかっ!」
そう言ってから自分はあんまりな事を言っているのではないかと思う。
もう少しましな言い方が出来ただろうに。
焦るとろくな事が無い。
遠野は流石に力無く、「良く分かったよ」と小さく言った。
「うっ……ごめん! 本当にごめん! 気持ちは嬉しいよ? でも……」
「もういいよ。俺も気持ちを伝えてスッキリしたかっただけだし。これからも気持ちの良い友達関係をよろしく」
から笑いをして遠野は言う。
「ももももっ、勿論! よろしくお願いします!」
声が上ずった。
遠野は、今度は本当に笑い、「ありがとうな」と言って僕の髪をくしゃくしゃにして頭を撫でた。
子供扱いは昔からだな、と思う。
「帰ろうぜ」
軽い口調でそう言うと遠野が身をひるがえす。
僕は慌てて遠野を追った。
そして並んで歩く。
お互い、特に話す事はしなかった。
僕達の後ろで桜の木が風に吹かれて揺れていた。
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