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第9話 一日で欲求不満になる体

「分りました。ここで、そでにされては仕方ありません。実情を申し上げましょう」 「聞こうじゃないか」 「ぼくの目的は、同性妊娠です。皇家本家次期当主のあなたの、子供を妊娠したい」  沙羅衣と枢流の目が合った。  これまでのどの瞬間よりも、枢流の目は真剣だった。  黒く艶のない、深い闇色の髪の下、同じく光の乏しい黒い瞳がじっと沙羅衣を見すえている。 「……驚いたな。同性妊娠は、たしかに記録にはあるが、どうすれば条件を満たして妊娠できるのかは、まだ未知のはずだろう。少なくとも、単なる性交渉では子供は作れない」 「祠堂家の一派が、古文書に残された記述からあらゆる要素を抽出して、ついに発見しました。完璧とは言えませんが、高い確率で、ぼくはあなたの子供を宿すことができます」 「それを狙って、このおかしな時期に転校までしてきたのか」 「ぼくが接近するまでに、適当な男を奴隷にしたり、外で女でも作られては台無しですからね」 「……それが、同性妊娠の条件に、どう関わるんだ?」 「そんなにあらいざらいは言えませんよ。ただ、このくらいはお伝えしないと、どうもぼくと交渉のテーブルについてくれそうにないので、やむなく口にしているんですから」 「さっきも言ったとおり、君がおれに与える快感だけを材料に、皇帝と奴隷になろうとしても無駄だ。今のところはまだ、テーブルにつく気にはならないな。もう少しおれにもたらされるものがあるか、あるいはおれが追い詰められないと」  沙羅衣は、空になった重箱を風呂敷に包みなおした。  まだ昼休みの時間は残っている。  風が渡り、小鳥たちがさえずるこの空間が、沙羅衣は気に入っていた。  どうも心が開放的な気分になり、浮かれかけてさえしまう。 「童貞のくせに、手ごわい人ですね。こんなに誠意を見せたのに」 「放っておけ。君なりには大きく譲歩したのかもしれないが、まだまだだな。それに、おれは普段から『皇帝と奴隷』については否定的なんだ。それこそ、幼等部のころからそう公言している。そんなおれがいきなり奴隷なんて作ったら、奇異にみられるだろ。おれの奴隷になるというのは、なかなかハードルが高いぞ」 「……いいでしょう。今日のところは、これ以上の進展は諦めました」 「それはどうも。なら、そろそろ行くか」  立ち上がろうとした沙羅衣の腕を、枢流が軽く押さえて、また座らせた。 「祠堂?」 「枢流、と呼んでください」 「なぜ」 「仲良くなる第一歩です」 「必要あるか?」 「これは、ぼくの目的とは無関係の、純然たる好感によるものです」 「いつの間に、そんなに好いてくれたんだ?」 「今さっきです。うれしいことを言ってくれた……」  枢流の手がすっと伸びて、沙羅衣のジッパーを下した。 「おい!?」 「だから、これはお礼です」 「そんなことは頼んでな……」 「一日で、欲求不満になるお体。存じていると、言ったでしょう」 「だからって、こんなところで」 「楽になってください。お時間はかかりません」  あっさりそう言われると、沙羅衣のほうは憮然とした表情になる。  その間に、沙羅衣のペニスは発掘され、外気に触れてひやりと冷えた。 「あは。先輩のこれ、こんなにかわいいんですね、普段は」 「当たり前だろう。こんな、いきなり……」 「大丈夫ですよ。今すぐ、本当の姿に戻してあげますからね……」  どの状態が本当の姿だ、と文句を言う前に、細い指が動き出した。  その指は骨ばって見えるのに、どうしてこんなに柔らかくたおやかな感触を与えてくるのかと、不思議になるほどに枢流のもたらす刺激は乱暴さとは程遠い。 「あ……」 「ほら、もう二割くらい、先輩の本当の形になってきた……もう、三割……」  性器の変形は、沙羅衣自身がいやというほど自覚している。  それをわざわざ口に出されると、なおさら興奮が増した。 「四割、……あっ、すぐ、六割……あ、あっ……」 「やめろッ……言うな……っ」  沙羅衣が顔をそむける。  しかし、上半身でいくらつれないそぶりを見せても、なんの効果もなかった。 「ふふ、……十割……」  指は、根元のあたりをゆるくしごいている。 「やっぱり、凄くいやらしい形をしていますね……飢えた獣のようです……こんなに、欲しがってあえいでる……」  そういわれて、沙羅衣は自分の下半身を見下ろした。  本当に、いやらしい形だ。そう思う。  快楽だけを求めて固く反り返り、熱くなって限界まで張り詰めた怒張は、本当にえさか何かを欲しがるように、何度も天に向かって繰り返し伸び上がっている。  もっと。もっと。  欲しい。でも、なにを……?  快感ともどかしさが、最も敏感な先端に集中していく。  早く。 早くそこを、思い切りしごきあげてほしい。  それなのに、枢流の指は、一向に根元から離れる気配がなかった。 「し、どう……」 「枢流、です」 「くるるっ……どうして、そこだけ、を……」 「気持ちよくないですか?」 「それは……で、でもっ……」 「声、我慢してくださいね。人に知られたら一大事です」 「わ、わかっ……でも、違っ……」 「大丈夫ですよ……すぐですから……」 「な、なにが……。こ、これっ……だんだん……」

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