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第16話 口中

 こく、と頭がうなずいたような気がする。  沙羅衣の我慢が、あっけなく決壊した。  びゅッ!! 「うぐっ!?」 「ああ、枢流ッ! 枢流ーッ!」  せっかくあんなにこらえていた腰の抑制がはじけ飛び、びくんと跳ねた腰が、ペニスを枢流の喉奥に打ちつけた。  わざとではなかったが、もう自分の意志で自分の腰を操ることは、沙羅衣にはできなかった。  がくがくがくッ! 「あ、ぐうッ!? すめらぎせんぱ、がふッ!」 「あはッ! く、枢流ぅッ!」  三度、四度、と激しい射精が続いた。  沙羅衣はつま先立ちになり、腿と尻を限界までひきつらせて、背を反らしたまま、数秒体を硬直させていた。  その力が、ふいにがくんと抜ける。  倒れそうになる沙羅衣を、すんでのところで、枢流が立ち上がりながら受け止めた。 「おっと。……ふふ、まるで糸の切れた操り人形ですね。見てください、一度には受け止めきれなくて、こんなに……」  枢流の唇から、白濁した液体がこぼれた。  その濃厚さに、沙羅衣は我ながら驚く。 (うそみたいだ……あんな……あんなに濃いのが、こんなにたくさん……俺の体から……)  これまでにも、自らの手で射精したことはある。  しかしあくまで制処理のためにさっさと済ませてきた手淫では、たかが知れた量だった。  それとは比べ物にならないほどの量と密度に、沙羅衣に急激に羞恥心がこみあげてくる。  自分がどれほど感じさせられてしまったのか、その液体を見ればすべて枢流に見透かされてしまいそうだったから。 「いいんですよ。それより、長居するわけにはいきませんから、体を流したら出ましょう」 「そ、そうだな……」 「ぼくは、見つからないようこっそり出ますから。ま、別に見つかってもいいんですけど」 「……そういえば、そうか」  寮の浴場は、枢流が入ったところでとがめられるものではない。 「もっとも、じゃあ先輩は二人でいたのに一人でいたことにして、なにしてたんだってことになりますから、先輩の名誉のためにはやっぱり見つからないほうがいいですね。恥ずかしい有様でしたもんね」 「お、お前っ。もとはといえば、枢流があんなことをするからだろう!」 「でも、感じてたじゃないですか。よかったでしょう?」  う、と沙羅衣がたじろいだ。  あんなにあられもない声を出して、抵抗らしい抵抗もせずに大量に射精してしまって、気持ちよくなかったとはとても言えない。 「あ、枢流、口もゆすげよ」 「口?」 「そうだよ。もう吐き出したのか?」  枢流がくすくすと笑った。 「ああ。そのことですか。ゆすぐなんてとんでもない、せっかくの余韻ですから。先輩がどんなに気持ちよくなってくれたかの、証拠ですからね」 「そ、そんな余韻があるかっ。ほら、さっさと……」 「ありませんよ、もう。飲んじゃいましたから」  飲んじゃいましたから。  こともなげにそういわれて、沙羅衣は絶句する。 「飲ん……だ……?」 「ええ」 「あれを……?」 「はい。最初は飲みきれなかったって言ったでしょ。だからそのあとに、だんだんと、ちゃんと。それにしても出しすぎですよ、先輩。こんなところであんなに出して、恥ずかしくないんですか?」 「は、恥ずかしいのなんのの話はもういい! し、しかし……飲んだ……のか……」  自分の放った欲望の塊が、目の前の一回生の体内に収められたと思うと、奇妙な気分になる。  まるで、二人の体が重なったような。そしてほんの少し、なにか、人質でも取られたような。  脱衣所に上がると、二人は体をふいて手早く着替えた。  枢流の服は普通に棚に入れてあったので、これを見れば浴室内に二人がいるのは自明だったのだが、本村はそこまでよく見なかったらしい。 「でも、皇先輩、あまりみんなのいる前で、勃起しないほうがいいですよ」 「誰がするかっ! 今まで、男相手にそんなこと、一度もない!」 「そうじゃなくて。先輩の大きいですから、無用の嫉妬を買いますよ」 「なにをバカなことを言って……」  そこで、一度言葉が切れる。 「……大きいのか、おれ?」 「はい。ほかの人が勃起しているところをまじまじと見たことはないでしょうけど、ぼくが見たところは、かなり」 「……それはなんだかちょっと、うれしい気がするな……」  ペニスの大小など気にするものではないと思ってはいるが、純粋な喜びは感じてしまう。 「はは。分かりますけどね。でも先輩、あまり人のペニスには興味ないでしょう。ぼくのも、全然見ようとしませんでしたし」 「……そういえば」  正直なところ、そんな余裕がなかったというだけではあるのだが。 「しかし、好き好んで見ようとするのも変だろう。おれは別に、ひとのそんなところに求心力は感じないしな」  二人とも髪は濡らしていなかったので、もう身支度は終わった。  あとはそっと抜け出すだけなので、そんな軽口も出る。 「そんなことないですよ。たいていは、ああなったら、見るどころか無遠慮に触ってきます」 「……枢流?」  急に冷めた口調になった後輩に、沙羅衣が驚いて声をかける。  はっとした様子で顔を上げた枢流は、もういつもの調子に戻っていた。 「先輩もいずれは、そうなるのかもしれませんけどね」 「それはいやだなあ……我ながら」  脱衣所を出ると、右手に行くと玄関だった。  念のため裏口から出るか、と彼らが目配せしていると、 「あっ! いたぞ、皇くんだ!」 「本当だ! 大丈夫なのか!?」  玄関のほうから、複数人の声が聞こえてきた。

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