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第30話 あなたがあなたでなくなるほどの気持ちよさ
「ぐっ、ああっ!? そ、んな……」
枢流が少し体を起こした。
そして、沙羅衣の両腕を、手首をつかんでシーツにはりつけにする。
腰の動きは、さらに勢いを増していった。
「あっ!? ああ! 枢流ッ!」
沙羅衣は、無抵抗のまま声を上げ、首を横に振った。
その動作にはなんの意味もない。ただ、それしかできることがなかっただけだ。
さっきまで枢流の腰を抱えていた足も、今はただ大きく割広げて、枢流を最奥までくわえこんでいる。
固く反り返った沙羅衣のペニスが、びくんびくんと、腹の上で揺れていた。
奇妙な感覚だった。まだ不慣れながら、圧倒的な快楽に今にも体すべてが飲み込まれそうなのに、最大の性感帯は手つかずのままで中空に放置されている。
切なくて、頼りなくて、沙羅衣はどうにかなりそうだった。こんなにも高ぶっているのに、指一本触れられることなく、とろとろと蜜を溢れさせている。濡れやすさは相変わらずだった。
ひときわ大きなしずくがとろりと落ち、臍に水たまりを作った。その性欲満タンにたたえた水が、沙羅衣が身をよじってあえいだせいでこぼれ、わき腹を通って落ちていく。
何度も、枢流に「触ってくれ」「強くしごいてくれ」と言いそうになった。そうしなかったのは、あまりの挿入感覚の激しさに、ものをしゃべることができなかったためでもあるのだが。
なにより、強い羞恥心がその懇願を妨げた。
後ろを貫かれ、両腕を戒められ、不明瞭な叫び声をあげながら、ペニスを愛撫してくれと願う。それができない。
いまさらかっこうをつけたかったわけではない。
ただ、枢流に、ふしだらで欲望に弱い人間だとみなされたくなかった。その思いで、沙羅衣は耐えていた。
だが、その我慢も限界に来た時。
枢流の動きが、ぴたりととまった。
「あ……え? 枢流……?」
「心配しないでください。やめたりしませんから」
かっ、と沙羅衣が赤面した。
「だ、誰がそんな心配を!」
精一杯の迫力を出したつもりだったのだが。
「そんなに怖い顔をしても、無駄ですよ。こんなに濡らしてしまっていてはね……」
そういわれて、沙羅衣がのけぞり気味にしていた頭を持ち上げてみると、ペニスは見たことのない状態になっていた。
半分白濁した液体に、頭から根本まで包まれ、持ち主の意思にかかわらずひくひくとなにかを訴えるように震えている。
自分のペニスを、こんなにいやらしいと思ったのは初めてだった。
「先輩、いいですか。先輩が一番気持ちよくなるのは、一番奥まで突かれた時ではありません」
「な……なに?」
「さっきの、先輩の特別な場所を、体の内側から突かれた時です」
沙羅衣の体が、びくんと震えた。
身に覚えがある。さっき、通り過ぎられただけで、そこが特別なのだと分かりすぎるほど分かってしまったところ。
「通常、男性の性器は、摩擦によって快感を得ます。けれど後ろは別です。女性の膣がそうであるように、押されたり、突かれることによって快感が生じるんです。もちろん、やり方が大事なんですけどね」
「枢流……? 君、なにを……」
「たいていの場合、男は愛撫の際の手などに力を込めてしまうので、やられるほうは気持ちよさと痛さを同時に感じています。快感が強いから無視されていますが、男による愛撫やセックスは、相手はある程度の痛みも感じているものなんです。しかし、これをきわめて上手に行うと、痛みをゼロにして、百パーセント快感だけを与えることができます」
「な、なんだ。枢流、さっきからなにを言って……」
ぐい、と枢流が腰を突いた。「あンッ」、と沙羅衣が声を漏らす。
「説明をしているのですよ。つまりですね」
枢流が沙羅衣を上から覗き込んだ。
「これから、先輩の性感帯処女を、痛みゼロで百パーセントの快感が生じるように、突きまくるということです。処女喪失のセックスが、人生最高のセックスになる」
「くる……」
「お覚悟を」
枢流が腰を浮かせ、今までとはわずかに角度を変えたのが、沙羅衣にも分かった。
「飲み込まれないでくださいね。これをやられたら、先輩はきっと……ぼくのことを大好きになります。ぼくでないと、本当にダメになる。でも、自分をなくさないでください。先輩を信じて……」
「枢流」
「いきます」
枢流が腰を引いた。
沙羅衣の内側をパンパンに押し広げていたものが、退却していく。
おかげで沙羅衣の呼吸が少し戻り、落ち着いてきた。
これなら、枢流がなにをしてきても、我をなくすことはないだろう。枢流は心構えとして、少し大げさに注意を述べたのだ。
沙羅衣は、そう思った。
しかし、再び枢流の侵略が始まると、そんな思考はすぐに消し飛んでしまった。
ずぐっ……
「ううっ!」
それでもさすがに、最初のようなインパクトではない。
大丈夫。
大丈夫。
そう言い聞かせたが。
ぐりっ……
「……あ?」
枢流の突きは、さっきとは違った。
侵入は、ただ最奥まで進むためのものではなくなっていた。
そうではなく、沙羅衣の最大の急所にぴたりと狙いを定め、推進力はそこで方向を変えて、弱点をえぐりこむような動きに変化した。
「うあああああっ!?」
「ほらね……すごいでしょう……」
本来ならばさらに奥まで突き込まれるはずの貫通力のすべてが、脆弱な弱点に殺到する。
ぐりゅっ!
「ああはッ!」
そして、枢流が動き始めた。
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