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第34話 同性妊娠の方法
「どうです? 本当に、どうしようもない理由だったでしょう。自分でも思いますよ、そんな風にして子供を作った人間が、ネグレクトとかを引き起こすのだろうなって」
「そんな風には思わない。おれはまだ君と出会って日が浅いんだ。君が、どんな思いをして生きてきたかなんて分かっていないしな」
「……先輩は、同性妊娠の方法はご存じないのですよね?」
「ああ。いつかもそんな話をしたが、ほとんど伝説上のものだと思っている」
「これも、お話しします。……あの宇良堅信との出会いも、その『方法』あってのものですから」
沙羅衣が、再び話を聞く体勢をとった。
「まず、必要なものは、同性の人間が一組。ただし、誰でもいいわけではありません。同性妊娠ができるにはある種の血統が必要で、その才能の血を受け継いでいない者には、決して妊娠できません。それがたとえば宇良堅信の宇良家であり、先輩の皇家なのです」
「……血統?」
「ええ。これまでに同性妊娠を叶えた家は、十に満ちません。そしてそのどれもが、近親関係にあるのです」
確かに、青龍堂や鳳凰千舞、それに玄武館や白虎学園などは名家の子供が集って通うことが多いが、その多くの氏族が遠い血縁関係にあるというのは、沙羅衣も聞いたことがある。
「次に、ドラゴンの血が必要です。生の血液ではなく精製されたものですが、これを妊娠する側の人体に皮下注射します。その状態で、他者――同性のパートナーですね――の精液を、性交によって体内に流し込みます」
「い、いやしかし……精液が必要なら、女性同士だとどうなるんだ? それに性交って言ったって、男同士の場合は膣や子宮があるわけでもないのに……」
「女性同士の場合は、卵子を使うことになるので、また別です。男性同士の場合は、性交によって粘膜と粘膜が接触しますよね。その際、ドラゴンの血が入っている体に、別人の精液が流れ込むと、そこで妊娠反応が起こるんです。ドラゴンの血を、だますわけですね」
「そうすると、……妊娠する、のか?」
「ドラゴンの血の、いわば誤反応を利用するわけなので、百パーセントとは言えません。実験したわけではありませんが、成功率は一割を切るそうです。……そこで、この確率を少しでも上げたいのですが」
「ふむ」
「そこでやはり、ドラゴンの習性を利用します。ドラゴン同士の交尾は基本的に一個体につき一度であることが多いですよね」
「ああ、そう習ったな」
「ですので、注ぎ込む精液は、初精が望ましいです。ここでいう初精とは、男性が初めて射精した際の精子のことではありません。初めて性交した時の精液のことです。そうすると、ドラゴンの血をだましやすい。大したもので、ドラゴンの血は、初体験者かそうでないかの判断をするそうですよ。初精でなければ、異物扱いするそうです」
「……生存しやすいのかしにくいのか、分らんな」
「さらに、妊娠する側の個体ですが。こちらは、ある程度性交に慣れているほうがいいとされています。というのは、やはり未経験者だと、ぎこちないというか、うまく精子を体内に受け止められないことがあるそうなんです。精子がうまく流れ込まないと、ドラゴンの血との反応がさせられませんからね。血が他者の精液を確認すると、男性の体内でも、新生児の核ができます。あとはそれを、精嚢を子宮の代わりにして温存すれば、子供が育っていく……という仕組みです」
なるほど、それで、あの宇良謙信とかいう女装家が、初精がどうの、セックスの熟練がどうのと言っていたのか。
ようやく、沙羅衣は腑に落ちた。
「それって、ドラゴンと人間のハーフとかにはならないんだよな?」
「ええ。ドラゴンの血の作用はあくまで核を生み出す生命力の根源としてであって、遺伝子は完全にぼくのもの単一ですから」
「……あれ、待てよ。さっきの話だと、精液を受け止めるほうはセックスに慣れていて、逆に注ぎ込むほうは初体験である必要があるのか」
「少なくとも、妊娠の可能性を上げるためには、そのほうがいいですね」
「ということは、あの宇良謙信というのは、童貞ってことなのか?」
「人のプライベートに触れるのは気が咎めますが、少なくとも、ぼくが今年転校するまではそのはずでした。それに、あの口ぶりだと……」
「童貞を貫いているっぽいな。とはいえ、おれも人のことは言えないが。しかし、なるほどな。それで君はおれを妊娠用の精子提供者として白羽の矢を立てたわけか」
「……正直なところ、そういうことです。皇家の方となれば、特に本家であれば、いくらでもセックスの相手が寄ってきますから、思春期に入ってすぐに童貞を失っていてもおかしくないですからね。ことを急がないといけないと思って」
沙羅衣が、ソファに深く腰掛けて頭をかく。
「見込んでいただけて、ありがたいよ」
「すみません。でも今は、先輩のところに来てよかったと思っています。本家の方って、皇家に限らずですが、暴君が多いですから。先輩みたいな方もいるんだと思うと、尽くすほうにも尽くしがいというものがありますからね」
そこで、はたと沙羅衣は気づいた。
「だが、君が妊娠するということは、その時にはおれが君に挿入して、童貞を捧げるということか」
「そうなります。そこは越えなくてはならないハードルではありましたが、あまりそういう嗜好がなくても、ぼくはいざベッドに入ってしまえば、なしくずしにそこまでもっていく自信がありますから」
ううん、と沙羅衣はうなる。
さんざん快感に溺れさせられ、すでに処女まで奪われている身としては、否定できない。
「それと、これはやはり聞いておきたいんだが。宇良くんは、君にかなりご執心なんだよな。どういうつき合いで、どういう風に分かれたんだ?」
さすがに、枢流は言いにくそうにうつむいたが、ぽつぽつと口を開いた。
「最初は、同性妊娠の適性のある人だとしか思っていませんでした。少し探りを入れたらどうやら童貞のようだったので、こちらの事情を打ち明けて、精子を入れてくれないかという話をしたんです」
「だ、大胆だなあ」
「あの通り、リーダーシップがあるというか、あけっぴろげなんですよね。こちらの言いたいことを、すべて言ってしまいたくなるといいいますか」
「ああ、包容力がありそうだよな。あの周りの取り巻きからも、慕われているみたいだったし」
「ええ。青龍堂でも、早くから人気でした。あの人は……」
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