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第35話 枢流と堅信の体の関係
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「同性妊娠だあ?」
目の覚めるようなピンクのワンピースを翻して、宇良堅信は、枢流にそう言った。
いつも周りを人が囲んでいる人気者を、わずかな隙をついて青龍堂学園の空き教室に呼び出した日のことだぅた。
堅信と枢流は同い年だったが、それまでほとんど交流がなかった。
それでも、「少し話があるんだ」と小声で打ち明けた枢流に、堅信は二つ返事で時間を作ってくれた。こうした対人の仕方が、堅信独特のリーダー気質を構成しているんだろうな、と枢流は理解した。
「いや、確かにおれは童貞だぜ。特に守り通すことにこだわりもねえ。だが、世界一かわいいおれの童貞を、お前の都合のためにくれてやるってのは、ちょっとなあ」
「ふうん。豪放磊落な人だと思ってたけど、意外にロマンチストなんだ」
「……ああ?」
挑発するような物言いに、枢流自身、胸が痛まないわけではなかったが。
この挑発に乗って、こちらの意図通りにコントロールできればありがたい。どのみち、精子の提供者に一緒に子供を育ててほしいなどとは思っていない。行きずりの、気まぐれな関係で構わないのだ。
「……お前、肝心の、ドラゴンの血は持ってんのかよ?」
「もちろん。家の中に隠してあるよ。そんなに大量ではないから、できるだけ成功の確率を上げたいんだ」
「ほーお。でも、お前の話じゃ、受精するお前のほうが、セックスに達者じゃないといけないんだろ? お前、言うほどのもんなのかよ?」
「……試してみる?」
その日の夜、堅信は、近場のモーテルで枢流との二人の時間を過ごし、驚愕の体験をした。
自分でも聞いたことのない声を上げ、見たこともない形に体をくねらせ、ただひたすらに圧倒された。
立て続けに四度射精させられたときは、快感よりもむしろ恐怖を感じた。
「なんなんだ……お前……」
息も絶え絶えでベッドにうつぶせになったまま、堅信はどうにかそれだけを口にした。
「お前、祠堂……おれと同い年なんだよな? それが、こんな……」
「欲しいものを」
「……あ?」
「欲しいものを手に入れるために、必要なものがあった。だから身につけただけだよ」
「身につけたって……こんなの、童貞のおれが考えたって尋常じゃないって分かるぞ……どこで、どうやって……」
枢流は人差し指を唇にあて、
「それはノーコメント。あまり口に出したくはないからね」
Tシャツとパンツ姿の枢流はベッドから立ち上がり、ペットボトルの水をグラスについで飲み干した。
さんざん堅信を翻弄したために、自分もうっすらと全身に汗をかいている。
「それで、宇良堅信くん。どうなの?」
「……あ? なにがだ?」
「精子。くれるの、くれないの? ぼくがじゅうぶんセックスに長けてるのは、分かってくれたでしょう? それとも……」
枢流が、まだぐったりとしている堅信の耳元に唇を寄せた。
「処女を奪われてから決めてみる? 童貞ではあってほしいけど、処女ではなくなっても構わないんだからね」
「なっ……」
そう言われただけで、一滴残らず欲望を吐き出し、すでにすっかり力を失っていたはずの堅信のペニスがぴくりと動いた。
「……それは、イエスということ?」
「ち、ちげえよバカ! お前のせいで、今おれの体おかしくなってんだよ! そんなついでみたいにやられたまるか!」
「それなら、今の気持ちを聞かせてよ」
「そんなの、それこそ今の状態で言えるかよ。くそ、牛の乳しぼりみたいに人の精液巻き上げやがって……」
枢流はそれを聞くと、小さくため息をついて、服を着始めた。
「無理強いはしないよ。さすがにそんなつもりはないからね。今のところ、同性妊娠を可能にする血統の知り合いも身近にいないし。……もし、宇良堅信くんに断られるか、あまり焦らされるようなら、次の候補者を探さなくちゃならないけど」
そう言われると、堅信の胸にチクリと痛みが走った。
なんだ? こんな色魔がおれから離れていったところで、俺がなにを気に病む必要がある?
そう自問してみても、あまりに未練も情緒もなく着替えを進めていく枢流を見ていると、寂しさで胸が絞めつけられるような思いがした。
「おれの精子のことは……考えておいてやる。結論は、しばらく待てよ」
「いいよ。その間に、また体を慰めてもらいたくなったらそう言ってもいいよ。君がその気になるまで、何度でも射精させてあげる」
二人は、別々にモーテルを出た。
堅信は、シャワーを浴びたせいで枢流よりも三十分ほど遅れて部屋を後にした。
自分が全く知らない世界を見せられたことで、妙に気分が浮ついていた。
すでにすっかり夜になっていて、ホテル街にはこれからのカップルや事後のそれらが往来のあちこちを闊歩している。
君がその気になるまで、何度でも射精させてあげる。
「ち、違うぞ! おれが精子の件で即答しなかったのは、決して、またあいつにしてもらいたかったからじゃ……」
道の真ん中でブンブンと頭を横に振る。
しかしその股間には、早くも、さっきいやというほど味わわされた指と唇の感触がよみがえってきていた。
指で作った輪で、ペニスの根元をゆるくしごかれただけで、すぐに射精感が込み上げてしまったことも。
ぬるりとした唇と下に包まれて、女子のように声を上げてよがってしまったことも。
もう自分の体が、枢流の愛撫を忘れることができないであろうことも。
すべてが現実であり、消せない事実だった。
会いたい。
今すぐ追いかけて、もう一度あの口でペニスをしゃぶってもらいたい。
股間は完全に勃起してしまっていた。
堅信は、生まれて初めて、人を虜にするのではなく自分のほうがとりこになる感覚を味わっていた。
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