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act.1-1 Ver.Haruka
「ワタル、今日も一人で帰るの?」
悠 が問いかけると、端正な顔が不思議そうに見つめてきた。
いま目の前で大口を開けてハンバーガーにかぶりついている彼――環とは、お互いに転入生ということもありすぐに意気投合して仲良くなった。
自分の方が遅れて転校してきたので、今は先輩としてあれこれと世話を焼いてくれている。
「女の子たちが誘ってきても、断ってすぐ帰っちゃうでしょ」
校内でも一二を争う美少年である環のところには、連日多くの女子生徒が押しかけてきた。
しかし彼はそんなもの眼中にないといった態度で、下校時間になった途端そそくさと帰っていくのだ。
そんな様子を毎日目にしていたら、理由が気になってしまうのは仕方がないことだった。
「んー、ちょっとね。放課後は忙しくて」
いひひ、とケチャップが付いたままのくちを四角にして笑う環。
「なに、別の学校に彼女でもいるとか」
「まあ、そんなとこ」
マジか、と悠は周囲を見渡した。
教室の隅で昼食を摂る自分たちの会話に、クラスの女子生徒が聞き耳を立てているのを知っているからだ。
案の定、何人かが目配せをし合っているのが見えた。おそらく明日には、全校中に噂が広まるに違いない。
「環の彼女か〜、やっぱ美人なんだろうな」
「うん。とっても綺麗だし、可愛いんだ。年上だけど」
臆面もなくノロケるあたり、相当惚れているのだろう。相手が年上、というのも、普段の環を見ているとなんだか納得できるような気がした。
「写真とか持ってないの」
「撮られるの嫌がるんだよねぇ……」
ペットボトルのコーラをごくごくと飲み干すと、環はスマホを手に取った。
「う〜ん、やっぱり見せられるような画像はないなぁ」
含みのある言い方にひっかかるものがあったが、悠はなんとなく聞きそびれてしまう。
裏を返せば、他人に見せられないようなものならある、ということなのだろうか。
黙ったままの悠に、なにかを思いついたような顔をした環が笑いかけてきた。
「はるか、会ってみたい?」
「え、いいの!? もちろん!」
思いがけない申し出に、悠はふたつ返事で了承する。
「あ、これなら見せても大丈夫かなぁ」
そう言って差し出されたスマホの画面には、すんなりと伸びた綺麗な脚だけが写っていた。
まっしろな肌はいかにもすべすべとした質感で、関節部分が薄桃色に色付いているところが艶めかしい。
「え、お前ひょっとして脚フェチ?」
なんともマニアックな画像に、悠はニヤニヤしながら環をからかう。
当の本人は、至極真面目な顔でぶんぶんと首を振った。
「脚だけじゃないよ! りおは、どこもかしこもぜ〜んぶ綺麗なんだから」
「確かに、名前もキレイだね」
その響きから、悠はモデル体型の女性を思い浮かべた。スタイルの良い環と並んだなら、さぞかしお似合いのことだろう。
「そうだね~、名は体を表すって言うし。でも、男では珍しいのかなぁ」
「……はい? 今……おとこ、って言いました!?」
聞き間違いかとも思ったが、環は「そうだよ」と当たり前のようにのたまう。
「え、もう一回写真見せて」
確かに改めて見てみると、女性のそれに比べれば幾分骨ばっているような感じもする。
「ふふ、会ったらビックリするよ」
いかにも嬉しそうな笑顔に、悠のなかに言いようのない不安がよぎった。
どうしよ、なんだか踏み込んだらいけない領域に引きずり込まれてるような気がするんだけど。
はたしてその予感は、数時間後に真実となる。
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