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act.1-3 Ver.Haruka
結局、教会のトイレを借りて半泣きになりながら自慰をする羽目になり、悠は打ちひしがれて廊下にうずくまっていた。
「きみ、どうしたの? 気分が悪いようなら、少し休んでいくかい」
頭の上で優しい声がして、見上げるとひとりの青年が心配そうにこちらをうかがっている。がっしりとした肩幅が印象的な、長身のイケメンだ。
その服装から、この教会に勤める牧師だとわかった。
「ありがとうございます、大丈夫です。ちょっと……自己嫌悪に陥っていたというか」
はは、と乾いた笑いで誤魔化すと、彼は悠の全身をじっと眺めてから言った。
「ひょっとして、嵯峨 環くんのお友達かな?」
「あ、はい……彼とは同級生で。ボクは陣内 悠といいます」
そうか、と穏やかに微笑むと、牧師は考え込むように黙り込んだ。
環のことを訊いてきたということは、あのふたりの関係も知っているのだろうか。
悠の脳裏に、先程の莉音の嬌態がよぎる。
「良かったら、お茶でもどうかな。いただき物だけど美味しいのがあるんだ」
いかにもな誘い文句に、悠は思わず苦笑してしまった。
好奇心に朴訥そうな人柄への好意も加わり、付き合ってあげてもいいかな、という気にさせる。
「いいですけど、お役に立てるかはわかりませんよ。環とはまだ知り合って日が浅いので」
「すっかりお見通しってわけだね。いや、普段のあの子を知りたいだけなんだ。協力してもらえるなら有り難い」
困ったように笑う顔がいかにも良い人そうで、悠はなぜか胸がちくりと痛んだ。
***
応接室のソファに向かい合って座り、イケメン牧師こと沖合 夕爾の自己紹介が終わると、途端に静寂が訪れた。
しかしそれは気詰りなものではなく、お茶の温かさと優しい香りに、悠は気持ちが落ち着いていくのを感じる。
促されて学校での環の様子を話すと、夕爾はにこにこと微笑みながら黙って聞いてくれた。
「あの……差し出がましいことを言うようですが、ふたりの関係はちょっと……特殊なものですよね」
話しやすい雰囲気に呑まれて、悠はつい口を滑らせてしまう。だが、夕爾はちいさく頷いただけだった。
「少なくとも、以前は普通の恋人同士だったんだよ」
でも、と前置きをして、夕爾はぽつぽつとふたりの出逢った頃の話を始める。
「最初は環が猛烈にアピールしてきて。正直、莉音は困ってる風だったけど」
「なんとなく想像つきます」
そこからしばらくは、良くあるなれそめ話だった。ふたりの距離がだんだんと縮まっていく様子を、夕爾は遠くから見守っていたという。
だが、時間が進むにつれて彼は言葉を選ぶようになり、ついにはすっかり冷めたはずの紅茶を啜るばかりになった。
「……きみは、莉音の演奏を聴いたかい?」
唐突な質問に戸惑いつつも、悠は最初に聴いたパイプオルガンの音色を思い出す。
「あ、はい。びっくりしました。音楽も、弾いている宗宮さんもとても綺麗で」
そう、だからこそあまりの落差に、より衝撃が大きくて現実感を伴わないのだ。
「莉音があんな旋律を奏でるようになったのはね、最近になってからなんだ」
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