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act.2 Ver.Yuji
夕爾にとっていまだ不可解なのは、環と付き合い始めてからの莉音が急激に変わっていったその有様だった。
教会のあちこちで見かけるようになった、仲睦まじいふたりの姿。
しかしそれと比例するように、莉音はみるみるうちにやつれていった。
当時の彼の荒れ具合を、夕爾はいまでもありありと思い浮かべることができる。
「その頃の莉音は、刺々しい音ばかり出していてね。いまのような演奏をするようになったのは……あの奇妙な遊びを始めたのと同じ時期だったと思う」
ある時を境にふたりの様子がおかしいことに気付いた夕爾は、とうとう薔薇園での狂宴を目撃してしまう。
「最初はやめさせようと思っていた。でも、不思議と莉音は精神的に落ち着きを取り戻していったんだ。だから様子を見ようと思って……」
傍目には微笑ましい恋人同士にしか見えなかったふたり。あの子たちの間に一体何があったのかはわからない。
それでも夕爾は、なんとか良い方向に導いてやることは出来ないものかとずっと頭を悩ませていた。
「ボク、見ちゃったんですよ。ワタル、すごく辛そうな顔してた」
悠の言葉に、夕爾は黙って彼の顔を見つめる。
「きっと、理由があるんだと思うんです。ああいったことをしなくてはいけない、なにか……」
言い淀んだまま、悠は考え込むように目の前のカップに視線を落とした。
「真実は当事者にしかわからないなんてことは、重々承知している。それでもぼくには、あのふたりが幸福だとはどうしても思えないんだ」
「そう、ですね……ボクも、あんな顔をしたワタルは、もう見たくないです」
友達の気持ちを慮るその様子に、夕爾は一筋の光を見つけたような気がした。
この子は、閉塞したいまの状態から自分たちを救い出してくれるのかもしれない、と。
「一度、彼と話をしてみます」
「そうしてもらえると助かるよ。ぼくからも声はかけてみるつもりだけれど、どうも嫌われているみたいでね」
それは嫉妬からくるものなのだろうと予想はついたが、夕爾にとっての莉音は弟のような存在だ。
家族としての情はあれど、恋愛とは違う。
「あぁ、もうこんな時間か。引き止めてしまってすまなかったね。話を聞かせてくれてありがとう」
壁の時計が午後八時になろうとしていることに気付いて、夕爾は立ち上がった。
「いえ、ボクの方こそありがとうございました。お茶、美味しかったです」
悠はぺこりとお辞儀してから部屋を出ていく。その背中を見送ると、夕爾はすっかり冷めきった紅茶を一気に飲み干した。
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