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act.9 Ver.Wataru
突然のプロポーズ。それは環自身でさえも予想していなかった出来事で。
でも、決して勢いだけの言葉ではないことは確かだった。
あのとき、振り向いた莉音の顔を見た途端――彼のなかに、いままで感じたことのない独占欲が沸き上がった。
ほんのりと色付いた目尻に、薄紅いろの頬。つややかな珊瑚のくちびる。
こんな姿、誰にも見せたくない。
自分だけのものにしたい。
衝動的に外に連れ出してしまい、引っ込みがつかなくなっていたのもある。
しかしそれ以上に、どうしても彼を手に入れたいという焦燥感が環を動かしていた。
「そんな、の……」
困ったように眉根を寄せる莉音は、だがそれ以上なにも言わなかった。
馬鹿げている、と。
そんなこと、できるわけがない、と。
きっとそう言って拒絶されるものと思っていた環は、意外な莉音の反応にその身体をぎゅっと抱きしめる。
「病めるときも、健やかなるときも……オレはずっと、りおのそばにいる」
腕のなかの身体がちいさく身じろぎするのを感じながら、溢れる想いを紡いでゆく。
「りおがどんな姿になっても、その気持ちは変わらない。オレも貴方に相応しい姿になって、隣にいるから」
おずおずと伸ばされた莉音の手が背中にまわり、きゅっと服を掴んでくるのがわかった。
「オレたち、神様には祝福されそうにないから……いまここで、りおに誓いを立てるよ」
環はそう言って莉音の腕を外すと、そっと身体を離した。
戸惑う彼の手を取って、恭しく掲げると軽くくちづけを落とす。
「どんなときも、この命が尽きるまで。貴方のことを、愛します」
震える指先を握りしめると、目の前の顔がみるみる歪んでいった。
「りお……泣かないで」
莉音の瞳からつぎつぎとこぼれていく雫を、環はなんてうつくしい宝石だろう、と思う。
声も出さず、ぽろぽろと涙が落ちるままにまかせて泣いている姿は、あまりにも儚くて愛おしい。
「あー、せっかくの化粧が落ちちゃう」
取り出したハンカチを頬にあて、莉音の背中をぽんぽんと優しく触ってやる。
「……もう、戻らないと、」
ちいさく呟いた声に頷いて、握った手を恋人繋ぎに組みかえた。
このまま、ふたりでどこか遠くに行ってしまえたらいいのに。
望んでも叶えられない願い。
だったらせめて、二度と離れることのないように。
この手は、絡めたままで。
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