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君の事情 2

 だけど、幸いにも両親の不在が多い俺の家で睦月のことを匿ってあげることが出来ていたので、そこに関しては問題はなかったのかもしれない。  だが、睦月の父親は母親よりも酷い人間だった。  睦月に対する性的虐待、金のためにと自分の子供を使って買春をさせていたのだ。 それがきっかけで睦月の精神はどんどん壊れていった。  俺が気付いた時にはもう、体も心もボロボロで。  その事実が発覚して、ようやく睦月の両親は逮捕された。  だけど、無事に解放されても、心まで救うにはあまりにも気づくのが遅すぎたのだ。  睦月の心は人を怖がるようになり、声を発することも人と触れ合うことも出来なくなっていた。  そして、今に至る。  俺がもっと早く気づいていたら、こんなことになっていなかったのかもしれない。 (今更、こうして後悔しても……仕方ないのに……)  そんなどうしようもないことで一人後悔に苛まれながら、目の前で怯える睦月に視線を合わせるように膝を折ってしゃがみ込むと、極力優しい声で話しかけた。 「触ってごめん。とりあえず帰ろう、睦月。な?」 「…………」  睦月は無言のままこくりと小さく頷いてくれて、俺はほっと胸を撫で下ろす。  今日は、唐突に朝焼けが見たいと言い出した睦月に付き添って、一番キレイに見える廃ビルの屋上に来ていた。  喋ることもないだろうと、いつも持ち歩いている会話用の電子パッドを置いてこさせていたので、睦月の応答は行動でしか判断が出来ない。  俺の言葉に対して頷いた睦月は青い顔のままそろそろと立ち上がり、ズボンについた砂を払う。  俺も小さく息を吐いてからその場から立ち上がると、睦月に背を向けて出口まで歩き出した。  とてとてと早歩きで追いかけてくる足音を聞きながら、朝焼けに染まる空に俺は僅かに目を細め、心の中で「ごめん……」ともう一度だけ呟いた。

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