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“言葉”で寄り添う

 そのあとに電子パッドを胸に抱えてしゅんと項垂れた。  俺は落ち込む睦月の頭を撫でてやりたいのに、撫でてやれないもどかしさで胸が苦しくなる。  でも、触れることだけが気持ちを伝える方法じゃないことはこれまでのことで十分理解しているから。  俺は精一杯の“言葉”で睦月に寄り添う。 「睦月、大丈夫だから。それより、ほら。これ前にお前、欲しがってただろ? 俺は使わないし、せっかく買ってきたから貰ってくれ。これでも睦月のために用意したものだから」  努めて優しくそう声をかけると、睦月は顔を上げて上目遣いで俺を見つめてきた。  安心させるように笑いかけてから手に持っていた袋を差し出すと、睦月は電子パッドを近くの机に置いて恐る恐る下から袋を受け取る。  俺が手を離すとガサガサと羊のぬいぐるみを中から取り出して、そのままぎゅっと壊れモノでも扱うかのように優しく抱きしめた。 「……!」  嬉しそうにぬいぐるみに頬を擦り寄せて微笑む笑顔を見れただけで、買ってきて良かったと俺の心も幸せで満たされていく。  声が出ないせいでいろいろな感情や気持ちが伝わりにくいが、睦月は表情が豊かなのでその笑顔だけでどれだけ喜んでくれているのか言葉がなくても伝わってきた。 「睦月が喜んでくれてよかった」 「……!」  俺の声に我に返ったのか、睦月は慌ててぬいぐるみを机に置いてもう一度電子パッドを手に取るとそれに文字を書いて画面をこちらに向けた。 『ありがとう、ユキ。すごく、うれしい』 「うん。とりあえず飯にするか。今日はロールキャベツにしようと思ってるんだ。睦月も掃除機片付けてから机拭いたりしてもらえるか?」  睦月はこくこくと頷いてから電子パッドを机に置いて、廊下に放り出したままの掃除機のもとへ走っていく。  俺はそんな睦月の弾むような足取りを見て僅かに頬を緩ませてから、手洗いなどを済ませて食事の準備に取り掛かるのだった。

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