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君からのお誘い
翌日。
『今日、一緒にどこかに出掛けよう?』
土曜日の朝。
朝食の場で睦月はそう書かれた電子パッドを真剣な顔で俺に向けてきた。
予め書いていたのか、椅子に座って二人で手を合わせてから食べ始めてすぐの出来事だった。
突然のその誘いに、俺は思考が追いつかず箸と煮物の入った小鉢を持ったままポカンと固まる。
「……えっと、なんで急に?」
もちろん俺としては睦月と二人で出かけられるのは素直に嬉しい。
だが、自分から進んで出て行きたがらないやつなのに、どうして今日は一緒に出掛けたいなどと言ってくるのか、全く見当が付かなかった。
そんな疑問を読み取ったのか、睦月はコツコツとまた何かを書いて画面を向けてくる。
『貰ったぬいぐるみのお礼したい』
(あぁ……あの羊……)
昨日、睦月のために買ってきた羊のぬいぐるみ。
あの後、睦月は自分の家に帰るまでずっとぬいぐるみのふわふわ毛を愛おしそうに撫でたり頬擦りしたりしていた。
余程気に入ったらしく、朝、こちらの家に来たときに、抱いて寝たということをいの一番に伝えてきたくらいだ。
(喜んでくれたのは嬉しいけど、別に気にしなくてもいいんだがなぁ……)
基本的に人に触れることが出来ないので、外に出るのも相当なストレスの筈だ。
それを無理させてしまうのは流石に申し訳ない気持ちになる。
「ぬいぐるみのことは気にしなくていい。それでお礼にって無理して出かける必要もないぞ」
「…………」
そう言う俺の言葉に、何故か睦月はしゅんと俯いて落ち込んでしまった。
「あ、えっと……! 嫌なんじゃなくて! お前、外に出るのも結構ストレスだろ? だから……睦月に負担、かけたくないし……」
必死に傷つけない言葉を探しながら手振り羽振りを加えて説明する。
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