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君からのお誘い 2
けれど、睦月は更に顔を俯かせて今にも泣き出しそうな顔になった。
(ヤバい……また傷つけた……?)
そもそも何故落ち込んでいるのか、理由も判然としないので、どう慰めていいのかもわからない。
睦月の場合は言葉を話せないからイマイチ心情が伝わりにくいのだ。
ただ、落ち込んでいるというのは確かなのでとにかく謝ることにする。
「ごめん……」
暫く沈黙が続いた後、睦月は漸く電子パッドに何かを書き込みそれをゆっくり俺の方に向けた。
『ユキと出かけたい。出かけることがお礼じゃなくて出かける上でユキにお礼したい』
「…………」
睦月のその言葉に胸の奥が熱くなる。
出掛けること自体がお礼とかじゃない、ということは純粋に俺と出掛けたいということで。
睦月にとってはただの深い意味のない誘いなのだろうが、俺からしたら二人でデートという解釈になってしまい、嬉しさのあまり今すぐにでも誰かに自慢したくなるほどだった。
『ダメかな?』
睦月は改めてもう一度そう聞いてくる。
「……ダメじゃない。俺で良かったら一緒に遊びに出ようか。実は俺もさ、睦月と二人きりで出掛けたかったから」
そう返事を返すとしゅんと俯けていた顔を勢いよく上げて嬉しそうに頷いてくれた。
普通の人のように会話が出来なくて、こうして小さいことですれ違ったりしてしまうけれど、それもまた俺たちには必要な道のりなのかもしれない。
いつか、睦月が言いたいことやしたいことを察してやれるようになりたいな、と思いながら俺は改めて煮物を箸で掴んで口に放り込むのだった。
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