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穏やかな一時

「お待たせ、睦月。ほら、落とさないようにな」  俺は自分の分のたい焼きを一つ袋から取り出して、もう一つ入ったままの紙袋を差し出す。  睦月が下の方から紙袋を掴んだのを確認すると直ぐに手を離した。  袋が小さいので手と手の距離が結構近かった。  この距離だけでも睦月の体が強張っているのは分かっていたが、こればかりはどうしようもない。  少しだけ眉尻を下げてから睦月と距離を空けて椅子に腰掛けると、鞄から持ってきていたスリムボトルを二つ椅子に並べた。  冷たい風が吹き抜ける公園のベンチで二人で暖かいたい焼きを食べながら、時々「美味いな」と言葉を交わし合う。  といっても俺から一方的に話しかけてそれに睦月が頷いているだけだったが。  昼飯前に食うのもどうかと思うが、たまにはいいか。  食べ終わってから、鞄に入れていたポケットティッシュで口を拭いて睦月へ声をかけた。 「とりあえず、少しゆっくりしてから昼飯がてらカフェに行こうか」 俺の言葉に小さく頷いて膝の上でボトルをころころ転がして遊んでいる睦月に、小さく笑みをこぼした。  しばらく、公園の遊具で遊ぶ子供を見ながら二人でぽつぽつ言葉を交わす。  たまにはこういうのんびりとした一日があってもいいのかもしれない。  睦月が一緒に居てくれるだけで、どんなところでも楽しいし、退屈になんて感じない。  好きな人といる時間というのは、そういうものなのかもしれない。 「さて、そろそろ行こうか」  流石にじっとしていたせいで寒くなってきて、立ち上がって睦月へ声をかけてから歩き出す。  睦月も慌てて椅子から立ち上がると、先ほど食べたたい焼きの紙袋をゴミ箱に捨てて俺の隣に並んだ。  そんな行動に心臓がドキリと跳ねる。 (隣、並んでくれるんだ……)  この距離感だってきっと怖いはずなのに。  それでも、隣に来てくれる睦月の優しさが嬉しくて心の中が温かくなった。

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