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突然の雨に降られて
「睦月、そろそろ帰るか? 雨降るかもしれない」
ここから家は少し遠いので、なるべく早めに帰らないと二人ともずぶ濡れになってしまう。
特に真冬ということもあって、濡れた状態で長時間外にいれば最悪風邪を引いてしまうかもしれない。
出来れば早めに帰るに越したことはないだろう。
睦月も分厚い雲が広がった空を仰ぎ見てから少し残念そうに眉を下げるとこくりと小さく頷いた。
河川敷を進んで家の方向に向かう。
後ろからついてくる睦月を気にしながら少し歩く速度をあげた。
「あ……やば……」
ポツ……ポツ……と雨の雫を頬に感じて空を見上げた。
小雨だった雨脚は少しずつ強くなひ次第に本降りの雨に変わっていく。
「睦月、一旦橋の下に行こう」
しかし睦月は普段あまり外に出ないせいで体力もある方ではない。
既に少し息が上がっていて、その足が徐々に速度を落としていく。
睦月は自分の体を両腕で抱きしめて浅い呼吸を繰り返した。
「……っ」
俺は着ていた上着を脱いで急いで睦月の頭に被せる。
冬の冷たい風が雨に濡れた体に吹きつけて冷えていくのだろう。
本当は橋の下まで背中を押してあげられたらいいのだが、触れられないのでせめて声をかけて励ます。
「あともうちょっとだから頑張れ。俺の服、握ってていいから」
睦月はこくりと頷いて俺の服の裾をそっと細い指先で掴んだ。
その顔は寒さのせいなのか近すぎる距離のせいなのか血の気がなく、体も小刻みに震えていた。
心の中で謝りつつなんとか橋の下へ着くと、鞄からタオルを取り出し睦月の頭に優しくかけてやる。
「……ぁ」
「頭それで拭け。大丈夫。タオルもう一枚あるから」
ちょうど運良く二枚タオルを入れていたお陰で助かった。
通り雨だとは思うが、横殴りで降り続く雨粒を見て深くため息が零れた。
濡れた服がベッタリと肌に張り付いて気持ち悪い上に、冷たい風と空気で体温がどんどん奪われていく。
震えそうになる唇を必死に引き結んで暗澹とした雨空を見上げた。
(流石に寒いな……)
チラリと睦月を見やると降り止まない空を見つめながら呆然と佇んでいた。
「睦月、寒くないか?」
体が震えているようには見えないが、幾ら俺の上着があるとはいえ今は冬で体温も奪われやすい。
声をかけられて睦月ははっと我に返ると上着を内に引き寄せながらふるふると首を振った。
(良かった……)
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