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君の声
「ぁ……う……」
だけど、今日のそれは、いつもとは違った。
「睦月……?」
睦月が何かを、伝えようとしているのがわかった。
いつもなら伝えたいことは電子パッドに書いて見せてくるのに、その御用達の電子パッドを胸の前でぎゅっと抱えて必死に口をもごもご動かす。
「ぁ……ぁ……ぁ、り……がと……」
「――……」
その口が、小さな音を紡いだのが、わかった。
わかったというより、耳に届いた。
部屋の中にエアコンの音と時計の秒針の音が混ざり合っていても、俺の耳にはしっかり睦月の声が、届いた。
「……っ、ふっ……」
あぁ、ダメだ。
喉の奥が熱くなって、瞳から涙が伝い落ちていく。
「ふ……、……っ、ぅっ……」
必死に零れ落ちる雫を止めようとするけれど、むしろ堰を切ったようにボロボロ溢れ出す。
そんな俺に、睦月はただ何も言わずに、黙って傍にいてくれた。
こういうとき。
触れられたら「頑張ったな」と睦月のことを抱きしめてあげられたかもしれない。
頭でも撫でてやれたかもしれない。
触れられないというのは、こんなにももどかしいものなのか。
それでも、今は睦月の声が聞けただけで俺の心に温かいものが溢れて満たされていく。
「ごめ……ちょっと……うれ、しくてっ……、……っ、久しぶりに、睦月の声、聞いた……から……っ」
「……ん」
小さく頷いてくれる睦月が愛おしくてたまらない。
あぁ、どうしよう。
この胸に溢れる想いをどうしたら、いいんだろうか。
わからない、けれど。
今は、ただ……君に――触れたい。
叶わない願いだとしても。
睦月に……触れたい――……
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