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君の勇気に触れて
「な、んで…制服?」
長い沈黙の後に出た言葉は疑問。
今までオンライン授業で睦月が制服を着てきたことなど一度もない。
どうせ自宅なのだから着る必要性がないからだ。
なのでその服に袖を通したのを最後に見たのも夏以来だった。
それ以降は一度だって着たことはなかったのに。
『俺、学校、行こうと思う』
「………」
睦月が電子パッドに書いたその文字を凝視する。
脳が理解しようとしてくれなくて、繰り返し何度も読み返して、ようやく理解したときには俺は足から力が抜けてその場に座り込んでいた。
『大丈夫?』
「あー…うん。大丈夫…。ちょっとビックリしすぎて…」
昨日の話が睦月の心を動かしたのだろうか。
動かして、しまったのだろうか。
それなら、俺が睦月に学校に行くことを強要してしまったようで、次第に罪悪感が心を満たした。
そんな俺の気持ちを感じ取ったのか、はたまたただの偶然か。
睦月が、声を発した。
「俺が、行き……た、かた……」
「……睦月」
昨日に比べると、睦月がしっかり声を発しているのがわかった。
それだけで、嬉しさで心の中がぐちゃぐちゃに掻き乱されてしまう。
「……ユ、キ」
睦月の声に名前を呼ばれたのは何年ぶりだろうか?
「……っ」
喉の奥が熱くなって俺は慌てて顔を伏せた。
涙が出そうで、必死でそれを堪えながら。
それでも、胸の奥はずっと泣いていた。
心の中でずっと――泣いていた。
あぁ、奇跡ってこんなに簡単に起きるものだっただろうか。
それとも、夢なのだろうか。
長い長い、夢の中に俺はいるのだろうか。
そう思うほどに、今、目の前にある光景はずっと願ってやまなかったものだったから。
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