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お昼の誘い
なにか言いたげに唇は動くが音を発することはなく、おずおずと画面を向けてきた。
そこに書かれている言葉を見て、心の中に熱が宿る。
『ユキさえよかったら、お昼……二人で一緒に食べない?』
きっと普通の人から見たら、ただお昼に誘われているだけ、くらいの認識しかないのだろうが、俺からしたらそれがとてつもなく嬉しい誘いだった。
好きな人から二人でお昼を食べようなんて言われたら、そりゃあ嬉しいに決まってる。
それに睦月はだいたい学校では一人で過ごすことが多いやつだったので、お昼も別々なことが当たり前で、そんな睦月が「一緒に」と誘ってくること自体が珍しい。
「……むしろ、睦月さえよかったら一緒に食べよう」
そう答えるが、顔がニヤけていないか少し心配だった。
俺の返事に睦月はぱっと顔を上げて電子パッドを胸に抱きしめると、ふわりと嬉しそうに微笑んだ。
「ぅ、ん……っ」
その笑顔は最近、時々見せるようになった懐かしい睦月の無邪気な笑顔だった。
やっぱり睦月には、笑っていてほしい。
睦月が楽しそうにしていると、俺も幸せだから。
今まで辛かった分も、笑顔で埋めていけるように。
この先も、少しずつ心の病気が改善していって、いつか昔のように睦月に触れられるようになるかもしれない。
そんな日は永遠に来ないと思っていたけど、少しだけ、希望が見えてきたような気がした。
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