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睦月の変化
「ふーん? でも、お前はそうだろうけど、睦月はまんざらでもなさそうだけどな?」
雅は俺にだけ聞こえるように耳元でそんなことを呟いてから、俺の後ろにいる睦月へ視線を投げた。
その視線のあとを追うように振り返ると、睦月が頬を赤く染めて俯いているのが目に入って思わず凝視してしまう。
(なんだよ、その顔……)
雅の言った通りその表情はまんざらでもなさそうなほど上気していて、やけに色っぽく見えた。
伏せた瞳がチラリと俺に向けられて、視線が合うとその目が大きく見開かれ真っ赤に染まった頬が更に赤みを増す。
「〜っ!!」
と、思ったらその場で踵を返し、逃げるように教室から廊下に駆け出した。
「あ、おいっ! 睦月!!」
「ちょっ、ユキっ! 授業は?!」
睦月の後を追うように教室を出ようとする俺を雅が呼び止めてきたが、その声を振り切るように廊下に飛び出した。
辺りを見渡すが睦月の姿は見当たらない。
俺の教室のすぐ近くに階段があるため、ここまで早く姿が見えなくなるということは階段を使ったのだろうが…。
上に行ったのか下に行ったのかもわからないので手当たり次第に探すしかなかった。
(でも……見つけたとしても睦月に触れられないから声で呼び止めるしかないんだよな……)
普通の人なら腕でも掴んで逃げられないように出来るのだが、睦月は触れられないので話を聞いてもらえなければゆっくり会話をすることすら許されない。
とにかく考えていても埒が明かないので、踊り場まで走ると階段を駆け下りる。
まずは下から探してみよう。
それでどうしても見つからないようなら上を探すしかない。
どっちにしたって今は睦月とちゃんと話をしなければ。
はやる気持ちを何とか抑えながら、俺は一つずつ空き教室などを探し回るのだった。
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