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睦月を探して

 それから三十分くらい経っただろうか。  ずっとあちこちの教室を見て回っていたが、睦月の姿は見当たらなかった。  授業中ということもあって先生にバレないように移動するだけでも大変だ。  よく考えてみると校内にいる、という考えが間違っているのかもしれない。  見つかったら怒られるだろうから見つからない場所に行くのが普通だ。 (だとすると……)  校舎の外、もしくは……屋上。  一番一人になれそうな場所はどう考えても屋上しかない。  その考えに至って、下りようとしていた足を止めて踵を返すと先ほど下りた階段を一段飛ばしで駆け上がった。 * * *  屋上へ出るための扉の前まで来てから一度膝に手をついて乱れた呼吸を整える。  見つけた時、なんて声をかけたらいいかと考えて上手い言葉が見つからず、とりあえず睦月の姿を探すために扉を開けて屋上に出た。  相変わらず冷たい北風が吹き抜けて、じんわりかいた汗に触れて、走ったことで上がった体温を一気に冷ましていく。  自分の体を両腕で抱きしめながら屋上内を見渡すが、やはり睦月の姿は見当たらない。 「……いないのか?」  少しだけ錆びた柵に近づき網目の間から校庭を見下ろしてみるが人影一つもない。  もしかしなくても……帰った、なんてことはないだろうか?  鞄は置き忘れることになるがそんなに大切なものを学校に持ってくるやつでもない。  困るといえば電子パッドくらいだろうか。  ただ壊れたとき用に家にも予備はあるので大して困らないだろう。 「一旦帰って――」  ガタッ……  諦めて家まで行こうかと考えたところで背後から僅かに何かが動く音がした。  北風の音に紛れて聞き逃しそうなほど小さな音だったが、俺の耳は確かにその音を聞き取ることが出来て慌てて背後を振り返る。

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