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見えない気持ち

 塔屋の上にあるタンクをじっと見つめてから、なるべく足音を立てないように移動した。  横に背カゴのついた梯子を見つけて、パイプを掴んで一段目に足をかけると音を立てないようにゆっくり上っていく。  上につくと一層、北風が強く吹きつけた。 「さむ……っ」  中腰でタンクに近づき後ろ側をそっと覗き込んでみると、睦月が膝を抱えて腕を枕にしながら眠っていた。  後ろ側はタンクが盾になって北風が遮られているので、風の強さは感じない。  その分、日陰になっているので少し寒いが。  どのみち触れられないので声をかけて起こすことにする。 「睦月。睦月ってば。起きろ」 「ぅん……? ぁ……?」  目を擦りながら寝ぼけ眼でこちらを見る睦月の前にしゃがみ込んで目線を合わせる。 「……っ!!」  漸く眠っていた頭が覚めたのか俺の姿を捉えた瞬間、慌てて逃げようと腰を上げる睦月の腕を掴みかけて、ぐっと堪えてからいつもより大きな声で名前を呼んだ。 「睦月っ! 頼むから待ってくれっ!」 「……っ」 びくっと体を震わせて恐る恐る俺の方を振り返る睦月と視線を交わしてから、俯いて瞳を伏せた。 「なにも、聞かないから。だから逃げないで欲しい……」 「わか、た……」  風に消えそうなほど掠れた声にゆっくり視線だけを上げる。  睦月が俺の前でちょこんと正座をしながら俯いていて、気まずそうに伏せられた睫毛の奥で琥珀色の瞳が不安げに揺れた。  どちらもそれ以上の言葉はなく、耳に届くのは風が鳴く音だけ。 「……そろそろ、帰ろうか? 風邪ひくし……」 「ぅ、ん……」  こんな風にお互いが必要以上に気まずくなるのは初めてだった。  なんで睦月が逃げたのか。  なんであの時、あんな表情をしたのか。  なんで……今、そんなに寂しそうな顔をするのか。  今まで以上に、睦月の気持ちが解らなかった。  だけど聞かないといった以上、それを問いただすことも出来なくて。  複雑な心境を抱えたまま、俺は睦月と教室に戻った。  授業を無断でサボってしまったので、放課後に担任に呼び出されて注意を受けたが、その内容の殆どは俺の耳には届いていなかった。

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