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無理じゃない。

 しかし今さら引くこともできないので、本当に玉砕覚悟で自分から睦月を誘うために重い口を開いた。 「……えっと、ちょっといいか?」 「…………」  俺の声に我に返った睦月は手に持っていた教科書を机に置いて気まずそうに目を逸らす。  それだけで針で突れるような痛みを胸に感じた。 「……その……放課後、忙しくないなら……良かったら雅と俺と睦月で、どっか遊びに行かないか?」  あくまでも雅の名前を最初に出して二人きりじゃないということを強調しておく。 「…………」  俺の誘いを最後に会話に沈黙が降りた。  俯いたまま口を閉ざす睦月と俺。  教室に残っている数名のクラスメイトの話し声や、廊下から聞こえる他の生徒の笑い声がこの沈黙のせいでやけに大きく耳に響いていた。 「……あー、無理ならいいん――」  あまりの息苦しさに助け舟を出そうと声を掛けようとしたその時。  遮るように言葉が発せられた。 「……じゃな、ぃ」 「……え」 「むり、じゃない……」  俯いたまま、それでも――  それでも、睦月はしっかり言葉を紡いだ。  申し訳なさそうにチラリと上目遣いにこちらを見る琥珀色の瞳が俺の姿を捉えて微かに揺れる。  ここ数日。  全く合わさらなかった視線がやっと交じり合って、胸の奥にようやく熱が灯った。 「……良かった。もう睦月と話せないかと、思った」 「……ごめん」 「いや、それは気にしなくていいから。あ、雅。睦月も行けそうって……雅?」 「…………」  漸く話に一段落がついたので協力してくれた友を振り返ると、何故かその雅は大きく目を見開いたまま固まっていた。

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