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弾む心
「ユキっ……そ、れ……っ」
「これくらい買ってやるって。ちょい待ってろ」
有無を言わさず、さっさと会計を済ませ睦月の元へ戻ると、袋に入った本を手渡した。
「ほら」
「ぁ、りがと……」
びっくりした顔で俺を見つめてから、そっと袋の端を掴んで本を受け取る。
「ありがと……」
もう一度お礼を言った睦月の表情が嬉しそうに綻んで、手に持っていた袋をぎゅっと抱きしめると頬擦りした。
(……昔からの癖だよな。もの貰うと貰ったモノに頬擦りするの)
俺も思わず笑みが零れて、心の中が温かくなる。
「ほら、帰るぞ。あんま遅くなると冷え込むからな」
「うん」
頷く睦月を一瞥してモールの出口へ向かう。
歩き出す俺の隣を、慣れ親しんだ距離まで近づいて並ぶ睦月の足取りが、いつもよりも軽い気がした。
いや、多分俺の足取りもいつもよりずっと軽い。
モール内に流れる穏やかなメロディーすら祝福の音のように聞こえた。
(今日、誘えて良かった)
本当に雅には感謝だ。
確かに気まずくなった発端は雅の言葉だったが、それでもまた睦月とこうして並んで歩けるのも雅のお陰だ。
(明日、売店でなんか見繕ってくるか)
前に気を遣ってくれた時のお礼も兼ねて。
「……えへへ」
小さく笑い声を零す睦月は相変わらず上機嫌で。
もしかしたら睦月に触れられるようになる日も、そんなに遠くないかもしれない。
そんな淡い期待が胸の奥に渦巻いていた。
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