47 / 166

しあわせの青い鳥

 モールから出ると、相変わらず冷たい北風が体の熱を奪っていく。  鞄からマフラーを取り出して首に巻くと、首元を撫でつけていた風が遮られて暖かさに包まれた。 「寒いなぁ……今年、雪降るかね?」 「雪……ユキ……?」 「いや、俺じゃなくて……」  睦月のそんな冗談に苦笑を漏らすと睦月も楽しそうに笑ってくれる。  というより、俺が空から大量に降ってきたら、それはそれで気持ち悪そうだ。  などとバカな想像を膨らませて更に笑いが零れた。 「ユキ、これ、……あり、がと」  睦月も同じようにマフラーを首元に巻いて一度鞄の中に直した本屋の袋を再度、中から取り出した。  華奢な指先がぎゅっと本を握りしめて、愛おしそうに見つめる琥珀色の瞳が柔く細められる。 「気にするなって。でも、そんなにそれいいか?俺はあんまよく知らないから良さがわかんないけど」 「しあわせの、あおい、とり」  タイトルをなぞるようにそう口にする睦月の瞳が、ふわりと揺れる。 「俺、この話、好き……だよ」 「…………」  確かに紡がれる睦月の言葉が俺の胸の中で揺らめいて、優しい灯りを燈した。 「だって、幸せは……いつも傍に、あるって、凄く、納得できる、もんね」 「睦月……」  袋を見つめていた顔を上げて俺に微笑みかける笑顔が、とてもキレイだった。  寒さで赤くなった鼻先と頬。  声を発する度に睦月の口から白い息が浮かんで、風に揺蕩って消えていく。 「……っ、……あのね、ユキ」  睦月は僅かな間をおいて空に息を吐き出してから改めて俺に向き直ると、ゆっくり。  けれど、凛とした声色で俺の名前を呼んだ。 「……俺、まだ、胸にある……この気持ち、なにか……わかんない、けど」 「…………」

ともだちにシェアしよう!