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僅かな距離

 いつから、ここまで、声を出せるようになったのだろう。  睦月の心が――睦月自身の想いを言葉にしたがっている、と痛いほどに伝わってきて。  俺は止まりかけていた息を吐き出して、もう一度飲み込んだ。 「ユキを、どう、思ってるか……わか、ないけど……。でも――」  最近、聞き慣れた声が、耳に響く。  心に反響して、揺れて、俺の内側で乱反射していく。 「ユキの……そば、いたい。これからも、隣に、いさせて、ほしいな」  途切れ途切れだけれど。  それでも、睦月の気持ちが音になって俺の中で韻をなしていく。  思わず抱きつきそうになった自分を必死に叱咤しながら、大きく頷いた。  むしろ、傍にいてほしい。  隣にいてほしい。  そう、口にしたかったけれど、喉を焦がす熱が。  零れ落ちそうになる|気持ち《オモイ》が。  言葉を紡がせてくれなかった。 「ユキ、なかないで」 「泣、いてない……っ」 「……うん」 「……っ、泣いて、ない……」  うん、と小さく繰り返す睦月の指先が俺の頭に伸ばされて。 「……っ、……ぅ」  前髪に触れる前に、震える手が、止まった。 「はっ……、ふ……っ、……は、ぁ……っ」  俺も睦月も、一ミリも動けなかった。  まるで時間ごと、この場の空間ごと、停止してしまったのではないかと錯覚するほど、微動だに出来なかった。  耳に届くのは睦月の乱れた呼吸と。  風が鳴く音だけ。 「………むつき」  やっとのことで、俺は声を発した。  体はまだ、金縛りにあったように動けなかったけれど。  それでも、睦月の名前を呼んだ。 「……大丈夫。無理するな。今は睦月と話せるようになっただけで……十分だよ」 「……、……っ」

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