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心の問題

 殆どというのは、睦月が俺と雅の前以外では声を発することがないからだ。  周りに聞こえているかどうかは別にしても、クラスメイトとは相変わらず電子パッドでやり取りをしていて、言葉を音にすることはない。  周りからしたらいい気はしないのだろうが、睦月も嫌がらせでそういった事をしているわけではないらしく、俺と雅のみが例外らしい。  もしかすると、幼馴染、友達、という位置が睦月の心に安心感を与えているのかもしれない。  雅ももともと睦月と仲がいい人間ではあるし、引っ込み思案な睦月に自分から話しかけてきた唯一のクラスメイトでもある。  精神的なものというのは特殊な理由や心境の変化で、出来ることと出来ないことに大きく差が出やすい。  これは出来るのにこれは出来ないのかと何もない人間なら思うのだろうが、本人にとってはそれがどうしても出来ないということもあるので、ゆっくり見守っていくしかないこともある。 「あ……ユキ、あれ」 「ん?」  モールから出て広場を横切ろうとした時、睦月が足を止めて広場の中心を指差した。  そちらへ顔を向けると大きなクリスマスツリーがあって、星やボール、ベルに紅白の杖、ひいらぎに『MerryChristmas』と縁取られたモーメントで飾り付けされていた。  その周りを色とりどりの電飾が柔らかな明かりを零している。

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