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隣の君

「これ……」  タッパーの裏に貼り付けられた紙を剥がして開くと、そこには 『朝ごはんに、食べて。中身はユキの好きな鮭だよ』  と書かれていた。 「朝ごはんって……一緒に食うだろうに」  おかしくて思わず笑みが零れた。  タッパーをもう一度、冷蔵庫の中に戻して、コップにお茶を注いで喉に流し込む。 (朝ごはんに睦月と食べよう)  そのまま二階に上がると自室のドアを開けた。  相変わらずまだ暗い部屋に、カーテンからほんのり明かりが漏れている。 「あれ、睦月、起きてる……?」  俺の部屋の隣はすぐに睦月の部屋の窓がある。 よく小さい頃はその窓から梯子を置いて、お互いの家に出入りしていた。  親にバレると危ないと怒られるので、いつもこっそり行き来して二人で口元に人差し指を当てて笑い合ってたっけ。  最近はお互いに家に行けばすぐ会えるので、窓から出入りすることはなくなったが。 「ちょっと話しかけてみるか……?」  そう思い、窓に近づく。  しかし、鍵を開けようとした手が寸でのところで止まった。 「睦月も家にいるときくらいは、ゆっくりしたいよな……」  ただでさえ人見知りで、今は精神的なものもあるので、構いすぎるのも良くないのかもしれない。 (とりあえず、朝飯作るか……)  せっかく部屋に戻ったが、ここにいると睦月に話しかけてしまいそうだったので、少し早いが朝食の準備をすることにした。

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