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君の表情 2
いつもの定位置に座って朝食を食べ始めると、いつも以上に睦月がチラチラとこちらに視線を向けてきた。
あまりの食い心地の悪さに、俺はとりあえず作ってくれたおにぎりを一つ手に取るとそれを頬張る。
「…………」
めっちゃ、ガン見されてるんだけど……。
いや、睦月になら幾らでも見られたいが、これは流石にちょっと恥ずかしい。
それでもおにぎりの味を確かめるように咀嚼すると、口の中に鮭の味が広がった。
「?」
この鮭、めっちゃ美味しい……。
てっきり鮭フレークでも入れているのかと思っていたが、もしかして……。
おにぎりを最後まで食べ終えてからお茶を一口飲むと俺は改めて睦月に向き直った。
「めちゃくちゃ美味しかった。というより、もしかしてこの中に詰まってた鮭って、睦月が作ったのか?」
「うん。塩鮭、買ってきて、お醤油、隠し味に加えた」
そういえば普段は俺がご飯を作るからあまり気に留めないが、睦月は基本的に軽い料理 なら作れたりする。
この前、熱を出したときに作ってくれたお粥も、レシピを見ながらだがとても美味しく出来上がっていたことを思い出す。
「凄く美味かったし、気が向いた時でいいから睦月さえよかったらまた作ってくれると嬉しい」
「……いいの?」
「え?」
どういう意味だ?
睦月は驚いた顔のまま俺を見つめる。
「えっと、あぁ。むしろ俺がお願いしてるんだけど」
「うん……。うん。また、作る」
俺からの返事に睦月が嬉しそうに顔を綻ばせた。
最近、本当によく笑うようになったな、と思う。
少し前までは作り笑顔は幾らでも見れたけれど、睦月が心から嬉しそうに笑う顔は全く見たことがなかった。
いつも元気に振る舞って、周りに心配をかけないようにと平気なフリをしていたから。
昔から睦月を見てきたからこそ、その変化に気づけた部分はあるけれど。
逆に気づくことで、俺も同じくそんな睦月に心を痛めていた時も多かった。
(近い距離にいるからって感じではあるけど…睦月がまた、笑うようになってよかった)
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