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揺らぐ感情
それだけではなく、守屋と新田の最後に発した言葉が頭の中で木霊して。
心の奥に、何度も。
何度も、切り傷をつけていく。
(常識……)
自分の睦月への気持ちは、確かに常識的に考えて普通ではない。
それを自覚はしていたつもりだったけれど、いざこうして否定的な言葉を聞くと自分の気持ちに迷いが差す。
嫌いになるというわけではない。
今の関係が変わるわけでもない。
そうではなく。
(……睦月は確かに少しずつ良くはなっていってる)
でも、声を発することが出来るようになっただけで、未だ触れ合うことは難しい。
いま睦月が診てもらっている心療内科の担当医には、明日治るかもしれないし、もしくは何十年も先かもしれない。
一生治らないかもしれないし、治っても再発する可能性もある。
だから、極力無理に触れたり、心に負担をかけないようにと注意は受けていた。
触れる、という行為が睦月にとってどれほど高い壁なのかはこれまでのことで一番俺がよくわかっている。
だからこそ、この気持ちは諦めようと思っている。
いる、のだが……。
諦めないといけないという気持ちと触れ合えなくても恋人になりたい俺と。
守屋と新田の言葉に揺れ動く気持ちに動揺する俺がいた。
「…………」
「ユキ! 大丈夫か?」
「……え?」
守屋と新田との話が終わったのか雅が俺のところまで帰ってくると顔の前で手をひらひらと振った。
そのおかげで我に返り、慌てて言葉を並べる。
「悪い、ぼーっとしてた。で、もういいのか?」
「あー、うん。守屋達も気をつけて帰れよー」
「へいへーい」
適当に手を振って去っていく二人の後ろ姿を見つめながら。
俺の心は、相変わらず、雪雲が空を覆い隠すようにどんよりと沈んでいた。
目の前を舞い落ちる雪も、今の俺には全く目に入らなかった。
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