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雅からの告白

 キッカケなんてそんな些細なことなんだろうな。  それでも、そういうことから今に続いているんだとしたら、雅とは単純に相性がよかったのかもしれない。 「……俺さ、その鍵の時から、ユキのコト、ずっと、目で追っかけてたんだよな」 「…………」  雅の放った言葉に、呼吸が止まる。  地面に視線を落としたまま一ミリも動けなくなる。  そんな俺の隣で、雅がブランコから腰を上げて立ち上がった。 「ユキの気持ちは知ってるし、そんなユキを応援したいって、思ってる。けど……」  これ以上は、聞いてはいけない。  そう思って勢いよく顔を上げて雅を見た瞬間に、俺は言葉を発することが出来なくなってしまった。  月を背に俺を見つめる雅の表情が、あまりにも苦しそうで。  迷うように、痛みに耐えるように揺れる瞳が、あまりにも辛そうで。  なにも、言えなくなってしまった。 「俺も、ユキのこと、ずっと好きだったから……。迷惑だってわかってっけど……それでも、ユキは俺じゃ、ダメか……?」 「…………」  ようやく吐き出した白い息が、弱々しく、空へ消えていく。  淡く輝く月が、明度を落とす。  目の前が、真っ暗になった。  俺は、なんて答えたらいられるんだろう。  そんなこと、出来ないってわかっているのに。 「……ご、めん」  やっと絞り出せた言葉はそれだけだった。  それ以外の言葉を俺は、雅に与えてあげることが出来なかった。 「……それは、やっぱり睦月以外、見れないって……ごめん……?」 「……ごめん」 「…………」  雅の顔を見れなくて、俺は耐えきれず顔を俯かせる。  視界の端に見える雅の靴の先が、地面を微かに擦った。

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