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君を誘いに 2
びっくりして睦月のそばまで駆け寄って声をかける。
近づいてわかる肩の震えに、言葉が出てこなくなった。
「……っ、……ふ、……ぅ」
声を殺して泣き続ける睦月に触れることが出来なくて、ぐっと拳を握る。
本当なら抱きしめてやりたい。
僅かにあるこの距離がもどかしいと何度思っただろうか。
「……睦月」
「……っ、……覚えて、たんだ……あんなの……」
「いや、えっと……」
覚えていたかというと、さっきまですっかり忘れていたので、その言葉に返答を濁してしまう。
「……ありがと。迎えに、来てくれて……」
「……ごめん、遅くなって。て言っても、まだ点灯時間じゃないし、むしろ来るの早すぎだろって話だけど」
俺は恥ずかしくなって苦笑する。
腕に埋めていた顔を上げて上目遣いで見上げてくる睦月の口元が笑みを刻んだ。
「……折角だから、どこか、行きたいな」
もう一度鼻をすすってから立ち上がった睦月は、小さな声でささやかな要望を口にする。
一瞬なにを言われたのかわからず、俺は瞬きを繰り返した。
「ユキさえ良かったら、俺と出かけて、くれませんか?」
「……っ」
俺が言おうと思ったことを先に言われてしまう。
だけどそれは、睦月も俺と出かけたいと思ってくれていたということで。
それだけで、うれしくて。
「うん。こんな俺で良かったら、一緒にでかけて欲しい」
「ユキが、いい。俺は、ユキと出掛けたい」
あの日と同じように睦月はその言葉を繰り返して微笑んでくれる。
その笑顔に何度、心をかき乱されただろうか。
もしもこの恋が間違っていたとしても、やっぱり俺には睦月以外なんて考えられない。
たとえ断られても、ちゃんと気持ちを伝えたい。
それがお互いを傷つけてしまう結果になってしまったとしても。
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