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君と、海へ
睦月の家から海までは徒歩で四十分程だ。
本当はバスを使えばもっと早く着くのだが、睦月の心の負担も考えると、なるべく行けるところは徒歩で行くようにしている。
道中にあった自販機で温かいお茶を購入して、冷えた体を温めた。
海岸の防波堤につくと砂浜に足を踏み入れる。
柔らかい砂の絨毯を踏みしめながら、波打ち際まで近づいた。
「う〜〜っ! さっぶ……!!」
海は周りに何もなく見晴らしは良かったが、北風がもろに吹き付けるせいで流石に寒い。
唸り声を上げて体を殴りつける風に眉を顰めながら、隣で水平線を見つめる睦月を見やった。
「……睦月は寒くない? 大丈夫か?」
「うん、寒さは強い方」
水平線を映していた瞳がこちらを向いて口元が得意げに笑みを作る。
そういえば睦月は昔から結構寒さには強くて、真冬に薄手の服で外に出るほどだった。
「それに、ユキからもらったマフラー、暖かいから」
「……! そ、そう、かよ……」
不意打ちすぎるその告白に、思わず視線が泳いでしまって、言葉の積み木を必死に並べた。
昔からそうなのだが睦月はたまにこうして人がドキリとするようなことを言うことがある。
いちいち過敏に反応しているのは俺だけかもしれないが、心臓に悪いことこの上なかった。
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