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君からの電話
それから俺と睦月は帰路につくことになった。
家の前で別れて玄関の鍵を開けると、暗く静かな廊下が目に入り、その静けさに何故か寂しさを感じた。
それからさっさとご飯を終えたあと、風呂に入って、出された冬休みの課題を進めていく。
睦月は、課題は進んでいるだろうか。
俺よりはそういうことにしっかりしたタイプなのでたぶん問題ないと思うが、一応明日にでも聞いてみた方がいいかもしれない。
もし都合が合うなら二人で課題の片付けをするというのも一つの手だ。
そんなことを考えていた矢先、テーブルの端に置いていたスマホが振動した。
勉強中などは邪魔にならないようにマナーモードにしているが、電話のみバイブレーションがなる設定になっている。
画面を見てみると睦月からで、それだけで俺の心臓は鼓動を早めた。
緊張で震える手で通話のボタンをスワイプして電話に出る。
『こんばんは』
「こんばんは、睦月。どうした?」
なんでもないよう平静を装いながら、電話の向こうの睦月へ話しかけた。
実はこうして電話越しで話すのは久しぶりだったりする。
睦月が声が出なくなってから、当たり前だが電話をする機会も減り、その延長線から声が出るようになってもメッセージアプリでのみしかやり取りをしていない。
『用が、あったわけじゃない、けど……ユキの声、聞きたかったから』
「そ、うなんだ……」
声が聞きたかった、なんて言われて勘違いしてしまいそうになる。
そんな意味じゃないって分かってはいるのに。
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