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君の告白
『今、部屋? 何してるの?』
「あー今は課題片付けてた。睦月は?」
『俺も。えへへ、ユキと一緒だ』
「…………」
嬉しそうに笑う睦月に、つい押し黙ってしまう。
『ということは、部屋、いるんだ?』
「そうだな。睦月も――」
『ねぇ、ユキ』
俺の声を遮るように睦月が言葉を発する。
そのいつもより優しい声色に首を傾げた。
「うん?」
『こっち』
そう睦月の声が電話越しに聞こえたあと、コンコンと窓を叩く音が耳に届いて、俺はゆっくり椅子から立ち上がって、カーテンの閉められた窓に近づいた。
『昔、よくここから、ユキの部屋に遊びに行ったり、ユキが、俺の部屋に遊びに来たり、したよね』
「……そんなこともあったな」
カーテンを開けて窓の外を見ると睦月がスマホを片手にふるふると手を振ってきた。
ガラスを隔てた向こう側に睦月がいて、窓を開ければ電話なんていらない距離なのに。
それでも、俺はその窓を開けることが憚られた。
『……昔からずっと、ユキが近くにいることが、当たり前だった』
「……うん」
『当たり前すぎて、近すぎて、ずっと、自分とユキの気持ち、見えてなかった』
開けてしまったら、たぶん、睦月はこの電話を切ってしまう。
自分の言葉を隠してしまう気がしたのだ。
『でも、ユキから、雅に告白されたって聞いて……俺、凄く、焦った……』
「…………」
『……ユキが、いなくなっちゃう。俺のそばから……。そう思うと、怖くて怖くて、仕方なかった……。でもその後に、断ったって言ったの聞いたら……』
睦月の琥珀色の瞳が揺らいで一筋、雫が零れ落ちた。
『安心、してしまってた……。最初は、その気持ちが怖くて、必死に見ないふり、したけど……意識し始めたら、もう駄目だった……』
「睦月……」
『俺……ユキのこと、きっと、ずっと前から……ずっと……好き、だった……』
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