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触れたい

『雪は、俺で、いいの……? 触れられないせいで、きっと雪のこと、たくさん苦しめちゃうよ……?』 「それでも、睦月がいい。触れられなくてもいい……。睦月と、一緒にいたい……」  涙とともに零れ落ちた本音は、今まで伝えたくても伝えられなかった気持ち。  俺が踏み込めなかった二人の距離を睦月は踏み込んでくれた。  本当は俺から踏み込まないといけなかったのに。  だから、今度は俺が、ちゃんと言葉にしなければ。  睦月に少しでも近づきたくて、窓に指先を触れさせる。 「……こんな俺だけど、これからもずっと隣にいて。頼りないかもしれないけど、睦月のことを支えられるように頑張るから」 『……うん。……うん。あり、がと……。おれも、ユキのそばに、いたい、です……』  頬を濡らして小さく頷く睦月に、微笑んで頷き返す。 「うん。そばにいて。これまで以上に、これからもずっと。大好きだよ、睦月」 『……ユキ』  いつもみたいに優しく笑いかけると、睦月は戸惑うように瞳を揺らした。 『……っ、おれ、どう、しよう……』 「……?」  ぽつりと呟かれた言葉は震えていて、涙に濡れた瞳が俺を映したまま切なげに細められた。 『いま、どうしても……ユキに、触れたい……』 「…………」  電話越しに聞こえた睦月の声が、耳に響く。 『……ホントは、凄く怖い、けど……』  怖いなんてもんじゃないだろうに。  今まで一度もそんなことを言ったことなんてなかったのに。 『……でも、それ、以上に……』  睦月の瞳がふわりと揺れて、俺は目をそらせなくなった。  必死に言葉を紡ごうとする睦月の声は確かに俺に届いていて。 『いま……ユキに触れたいって、思った、から……』 「…………っ」  優しく波紋を残した。

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