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触れたい 2

 “触れたい”  その一言がストンと心に染みていく。  今日一日、睦月といて、俺も何度触れたいと思っただろうか。  いや、今までもずっと、俺の方が睦月に触れたくて、触れてほしくて仕方なかった。  それを睦月から望まれることはないと分かっていても、一生来ないと思っていても、願わずにはいられなかった。 『……ユキ』  睦月の震える手が、そっとこちらへと伸びる。  先ほどとは違う恐怖への涙が、その瞳からこぼれ落ちていく。  それでも睦月は、その手を窓越しの俺の手に。  重ねた―― 「――……」  感触もなく、体温も伝わってこない。  指先だけが触れる程度だけれど。  たった数ミリのガラス越しに、睦月の手が俺の手に重ねられていた。 「……睦月」  今の俺と睦月が触れられる、距離。  たとえ窓越しだったとしても、今までこんなに近くに睦月を感じることなんてなかったから。 『……ユキ、ごめんね』  そう言って謝った睦月の手が、ゆっくりと窓から離れた。 「ううん……むしろ、ありがとう……」  ありがとう、しかないじゃないか。  あんなに触れることを怖がっていた睦月が、俺に触れたいと一歩を踏み出してくれた。  それがたとえ直接触れたわけではなくても、その数ミリの距離まで歩み寄ってくれた。  きっとそれは、並大抵の覚悟では出来ないはずだ。

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