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君の勇気

『……はぁっ、ぅ……、……っ』 「睦月……? ごめん、無理させて。とにかく、今日は休もう? な?」  スマホを持ってない方の手で自分の体を抱きしめてその場に蹲る睦月に、俺は慌てて声をかける。 『……うん。……ごめんね、ユキ。こんな俺で、ごめん、なさい……』 「そんなの気にしなくていい。今日は色んなとこ出掛けたから疲れただろ。また明日話そう」 『うん……わかった。ホントに、ごめんね。……それじゃあ、おやすみ』 「おやすみ、睦月」  そのまま電話が切られて窓の向こうで睦月はなんとかよろよろと立ち上がり、小さく頭を下げて窓を閉めるとカーテンの向こうに姿を隠した。 「…………」  今はとにかく、触れたことで乱れた心を休ませてあげなければ。  触れるという行為は、人にとってとても当たり前で、そんなに怖いものなのかと疑問に思う人も多くいる。  だけれど、睦月本人はたったの数ミリですら、相手を近くに感じることが怖くてたまらないのだ。  それでも尚、俺に触れたいと一歩を踏み出してくれた。  なら、俺から出来ることはそんな睦月をそばで支えてあげることだけなのだと思う。 「……睦月、お疲れ様。おやすみ」  届くはずはないけれど、俺は睦月の部屋へ向かってその言葉を呟くと、ゆっくりカーテンを閉めた。  机にそのままにされていた課題と筆記用具を片付けて部屋の電気を消してから、暖かい布団の中に潜り込む。  ……本当は今すぐ訪ねて、様態を確認したい。  だけれど睦月は今、きっと人に会うことが出来る状態じゃない。  なら本人が落ち着くまで待っていた方がいいのだろうと思う。 「…………」  こんなに家同士が近くないときっと触れられなかった。  プライバシーとかいろいろあるのかもしれないが、今はこの状況に一番感謝してしまった瞬間かもしれない。  睦月と窓越しに触れた手を胸の前でぎゅっと握りしめながら、俺はゆっくり眠りに落ちた。  どうか睦月が、楽しい夢を見られますように――  そう、願いを込めながら。

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